ゆかぽんたす

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風が吹いて真上から木の葉が落ちてきた。それだけなのに、何故か無性に淋しくなった。
落ちてきた葉は桜の樹のそれだった。春には、この通りはわりと有名な桜並木なので見物人が沢山来る。それが今では、私の他に歩いているのは誰も居なかった。時間ももう夕暮れ時だから仕方ないのもあるけれど。

桜は、春にしか注目されない。それがなんだか切なくて足を止めた。50メートルほど続くこの並木道。花が散って葉桜になって、今の季節は葉が落ちてゆく。落葉樹だから冬は淋しい姿をさらす。でも、いつの間にか蕾をつけてまだ肌寒い頃に花を咲かす。咲いたらあっという間で、良くて2週間くらいしかきれいな姿でいられない。そうしてまた1年。次の春まで注目されることがない。

でも桜は、日本の代表となる植物で、表題とされる曲は様々で、学校には必ずと言っていいほど植えられていて。誰もがあの花を愛している。そう、花だけ。今の季節の姿を綺麗だと思う人はいない。私もそうは思わない。花をつけていない状態では桜とさえ気づかれない。淋しいな。

なら、私も。この長い髪を切ってメイクを落としてカラコン取ってしまったら、誰にも気づかれないのかな。この有名なデザイナーのワンピースも、このハイブランドのバッグも、私の存在感を形成してくれるためのものでしかないのかもしれない。だって別に好みの色でもデザインでもないから。

自由に生きる、って。
羨ましく感じるけど、実は難しいのかもしれないな。

「あ」
また1枚、桜の葉っぱが落ちてきた。
桜はみんなに“きれいだ”って言ってもらえるたった数週間のために寒い時期をじっと耐えてる。それって、“淋しいな”じゃなくて“凄いな”じゃないだろうか。私も、もう少しだけ頑張ってみようかな。
意外なところで勇気をもらった、そんな秋の夕暮れ時。

11/5/2023, 5:54:43 AM