─泣かないで─
大きな檻の中には
簡易ベッドと
仕切られたトイレと
動く度に舞う鳥の羽
床には銀食器と食べ物が散らかっていた
真ん中に一人
ボサボサのトリの巣みたいな頭
紅く滲んだ目は濁っている
幽霊鳥だ
そう思った
彼は泣いていた
僕は怖気付いていた
なぜなら
先生の言っていた”病気”
手紙に書いてあった”穢れた鳥”
それらはきっと
先祖返り というものだろうから
少し前に本で読んだことがある
先祖返り…ヒトによって症状は様々。血に飢えて襲う者もいれば身体の一部が変化する者もいる。
共通することはひとつ、自我を保ちながらも身体を制御できなくなってしまうこと。
先祖返りは鉱物精霊の涙石で沈めることができる。
涙石は希少な為、明確な治療法は未だ判明していない。
「あの子たぶん先祖返りだよ」
「ふーん。ねぇ、お前がこの手紙書いたの?」
普通、先祖返りは忌み嫌われるのに
犬はお構い無しに話しかけた
鳥は怯えながらもコクコクと頷いた
「ぼく、の、こと、こわ、くない、の?」
あまり喋ったことがないらしい
途切れ途切れに言葉を紡いでいた
「怖くないよ。だって伝染るわけじゃないし」
はっと気がついた
そうだ治療法がほとんどないだけで
この子は何も悪くない
なのに僕は鳥を怖がっていた
なんて愚かなんだろうか
「ごめんなさい。初めて見た時、僕は君のことが怖かった。
でも、今は怖くない」
鳥は微笑んだ
優しくて綺麗な顔だった
「きて、くれて、あり、がとう」
「外に出られないのは先祖返りだからか。
なぁ猫、治す方法ないかな」
「ひとつだけあるよ」
「ほ、ほん、と?」
「鉱物精霊の涙石だよ」
「じゃあそれを取ってくれば鳥は外に出られる!
探そうよおれたちで!」
「とても希少だから、今度石を売りに来るノッカー達に聞いてみよう」
「ノッカー、の、涙、は石、に、なる」
「そうなのか?」
「うん、いつも来てくれるノッカーなら涙石を分けてくれるかもしれない」
「で、も、涙石、は…」
僕らは
鳥を外に出す相談に夢中になり過ぎた
地下階段を降りてくる足音に気づかなかった
カツン…
先生だった
「あらあら、あなた達…」
その瞬間
鳥が泣き出した
「うぇぇん…ヒック…ふた、り、わる、くない…ヒック」
泣き声と共に部屋中に黒い鳥の羽が散った
鳥が大きくなっていた
(に、げ、て、いい、よ)
僕らが怒られないようにしてくれてる
「うわっ猫っ!こっちだ!」
「でも…」
犬に腕をすごい力で引っ張られて
僕らは図書館を出た
扉は先生が来たから開いていた
部屋に戻って
どっと疲れが来たので僕らはそのまま眠った
後日、夜中に部屋を抜け出したことを先生が叱った
でも、
「ずっと地下に閉じ込めるなんて私が悪かったわ。
パイプ越しじゃなくまた、会いに行ってあげて」
鳥に会いに行けるのだ
嬉しかった
あとはノッカーに話を聞いて
僕らは鳥を檻から解放する
鳥はもう泣かなくていいんだ
泣かないで
笑って生きるんだ
11/30/2021, 11:10:55 AM