『あれは…』
同情からだったのだろうか?
たまに、思い出すけど…今は違うと分かっている。
学生時代、私は人見知りで友人も少なく
教室の隅で過ごすような子だった。
唯一の楽しみは
放課後の図書室で、1人読書する事。
この高校は、読書に力を入れてて
図書室が他の学校より広かったのだ。
お気に入りの場所は…奥の窓際。
放課後の陽を浴びながらの読書が
至福のひととき。
そんなある日、私に事件が起きた。
「その本面白い?」
自分に聞かれてるとは思わず、読み進めていた。
「倉木さん、それ面白い?」
「………?!へっ?」
「…あっ!面白い…よ」
間抜けな反応にも、爽やかに笑う。
クラスで人気者の
小野田くんが話し掛けてきたのだ。
…その日を境に、
私達は、放課後読書する仲になる。
3年生になり、気付けば卒業式間近。
小野田くんから、思いもよらない事を言われる。
「倉木さん、うちの高校てさ卒業式に
ネクタイ送り合うじゃない?」
「好きな人にさ。」
「あー、うん。聞いた事ある。」
その後、何かを言いたそうにして気になった。
だけど、ゆっくり待つ事にした。
「倉木さんの…ネクタイ欲しい。」
「えっ!?」
あまりに唐突な発言に、驚いてると
「……!ごめん、気にしないで。またね!」
小野田くんは、慌てて席を立っていってしまう。
『どういう事!?…友人少ないから同情した?』
色々考えたけど、分からずその日は帰った。
翌日からも、小野田くんは変わらず放課後来た。
何事もなかったような笑顔で。
…あの一件がうやむやなままの卒業式。
長い祝辞に後輩からの送辞…あっという間に終わり
みんな、それぞれにネクタイ交換をしている。
私は、もちろん誰ともする事なく
学校を後にした。
駅のホーム、ベンチに座って
ネクタイを取り、髪もほどいて
自由なんだと感じたと同時に…
なぜか涙が一気に溢れてきた。『…なんで?』
慌ててハンカチを探していると
「はい。良かったら使って。」
ハンカチを差し出された…手の先には
「小野田くん…?」
彼が、変わらず爽やかに笑っていた。
「やっぱり、諦めきれなくて…ネクタイ交換。」
「僕ね、ずっと好きだったんだ。倉木さんの事」
信じられず、ただ涙を抑えて聞く事しか出来ず
「忘れちゃったよね?…入学式、雨で…」
「校門前で車に泥はねられちゃった僕に」
「君は、ハンカチ今みたいに差し出したんだ。」
うっすら記憶はあるものの
小野田くんかは覚えてなかった。
「それから君を好きになった。僕も人に優しく
しようって思ったんだ。」
気付いたら、手には小野田くんのネクタイ。
…私は、放課後を共にするよになって
彼を好きになっていたんだと、ようやく気づいた。
「…私ので良ければ、受け取って。」
私も、穏やかに笑顔で彼に渡す。
「私も、一緒にいるようになって…好きになってた
みたい。」
顔赤くして、嬉しそうに
私の手ごと掴む小野田くん。
「ありがとう!」
そうして、2人の時間が始まり…
年月は経ち、私達は大人になった。
変わらず穏やかな時間が流れている。
「小野田くん、待って」
「小野田くんて…もう君も小野田だよ?」
「……あっ!」
爽やかな笑顔と穏やか笑顔
私達はこの先、幸せな時間を永く過ごす事になる。
2/20/2023, 11:08:23 PM