Nobody

Open App

今更という他なかった。
東京行きの新幹線の発車時刻は
刻一刻と迫っている。

見送りはいらないと言ったのに
この男は何故か私の座っているベンチに
同じように腰掛けている。

何を話すわけでもない。
チラリと隣を見ても
彼はこちらを見ることなく
私があげたネックレスを
感触を確かめるように触っている。

アナウンスが鳴り響き
新幹線がホームに入ってきた。
荷物を持って立ちあがろうとすると
何かに引っ張られて再び座らされる。

違和感のもとを辿ると
私のシャツの裾を握る
彼の手がそこにあった。

怒りで眩暈を覚えたのは初めてだ。

彼の手を振り払い新幹線に乗り込む。

振り返ると
閉まるドアの向こうで
私と同じ顔をした彼が
何かを伝えようと必死に口を動かしていた。

ねえ 気づいてる?
私たち
想ってるだけじゃだめだったんだよ。

歪む視界のなか
胸は締め付けられ
呼吸もままならない。


【行かないでと、願ったのに】#199

11/3/2025, 3:02:54 PM