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届かないのに

届かなくても忘れられない思いがあると知ったのは、中学生の頃だ。
卒業式の前日、私は大切な親友にある約束を取り付けた。
“卒業式の後、誰もいない教室で話がしたい”
彼女はそれを聞いた時笑っていた気がする。笑って、楽しみだと、そう言っていたはずだ。
だが、彼女は来なかった。卒業式にすら来れなかった。登校中に交通事故で死んでいたらしい。顔も制服も、元が分からないほどぐちゃぐちゃになってしまったらしく、身元確認が出来なかった。そのため彼女の行方は家族にも教師にもわからず、1人の無断欠席で式を中止する訳にも行かず、式は彼女なしで行われた。死んでるなんて、誰も思わなかったから。
当時スマホが出たばかりで、持ち合わせていなかった子供の私は、それを知らず教室で待ち続けたのだ。そして、やっと連絡を受けた担任から、その報せを聞かされた。
彼女は、私が思いを伝えたかったあの子は、もうこの世界にいない。

そんな彼女が、大人になった今目の前にいる。

正確には彼女の姿なんてしておらず、私が彼女を投影しているだけ。と、いうのが“魔法使い”の言い分だ。
彼女の命日、墓参りの帰りに魔法使いは私の前に現れた。恋焦がれた姿を見て動揺する私を、問答無用でバーへ連れ込み、そしてこう言ったのだ。
“あなたの想いを僕にくれやしないか”

曰く、魔法を使うには“心”が必要。その思いを、魔法使いは持ち合わせていなかった。理解することが出来なかった。
そこで、彼(彼女?)は心の成果物である“思い”を他者から貰うことにしたらしい。すぐに消えてしまうような思いではなく、心を蝕むような、あまりの重さに耐えられないようなそんな“想い”を。
自分を鏡のようにする魔法を使い、相手の想いを写す。そしてその想いを貰う。貰われた想いは魔法使いのものになり、持ち主はその想いを忘れる。
その取引相手に、見事私は選ばれた。

正直、重いとは思っている。中学生という多感で繊細で、そして子供だったあの頃にもたらされた親友の死が、そして10数年たった今でも、彼女の存在を引きずっている自分が、あの日行き場を無くしてしまって、私と共に育ち続けている想いが。

未完









6/17/2025, 3:41:20 PM