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「単品で見たの初めてかも」「単品て」

苦笑いと共にはい、とこちらに手渡されたのは、光に透けるピンク色の可憐な花弁。
フィルムで簡素に包まれた一輪のコスモスだった。

私の中のコスモスは、あたり一面緑とピンクと白に覆われた花畑の印象であり、さあっと吹き過ぎる風に吹かれてそよそよとたなびくイメージだ。一輪での印象は無きに等しい。


「かわいいねぇ…ありがと」

一輪だと可憐さと繊細さの主張強いな…などと益体もないことを考えながらも、思わぬプレゼントにじわじわと頬が緩むのを感じる。


大事にするね、と顔をあげて礼を告げると、言われた彼は少し目を見張ってこちらを見てきた。
それどういう反応?


「……今度咲いてるとこ見に行こうか」
おお、楽しそうなお誘い。
「群生地?」
「うん、群生地……」



情緒〜〜〜〜と苦笑する彼の手を取り、ゆっくりと歩き出す。

なんで笑ってるんだろう。



『一輪のコスモス』
/魚群みたいに言うな

10/10/2025, 4:19:07 PM