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「あれ?
 靴下がない……」

 ベランダに干した洗濯物を取り込んでいる時の事。
 洗濯物の中に、靴下の片方が無い事に気づいた。

 部屋に取り込むときに落としたのだろう。
 そう思って、ベランダまでの道を辿ってみるも、どこにも靴下の片割れは無い。
 念のために洗濯機の周りを見てみるも、出てきたのは埃だけ……
 いつかは掃除しないとだけど、後回し。
 靴下を探す方が先だ。
 見落としがあったかもしれないのでもう一度道を戻る。
 今度は丁寧に探すもやはりない。

「うーん」
 私は腕を組んで、頭を働かせる。
 靴下は脱いだらいつも、洗濯機の中に放り込んでいる。
 どこか別の場所で脱いだ可能性もあるが、もう片方があるので無視していいだろう
 一人暮らしなので、同居人がどこかに脱ぐ散らかすと言うのは無い。
 だからどこかにあるはずなのだが、影も形も無い。
 一体どこへと行ったのだろう……

 私が考え込んでいると、視界の端で何か動くものがあった。
 飼い犬のクロだ。
 そうだ、クロに聞いてみよう。

「ねえ、クロ。
 靴下知らない?」
「わん」
「そっか」
 シロは探し物の達人――いや達犬だ。
 いつも探し物をしていると、頭がいいからなのかどこからともなく探し物を持ってくる。
 だからクロに聞いてみたのだが、私にはクロの言っていることはてんで分からない。

 知っているのか、知らないのか……
 というか私の言うことを理解しているのか……
 靴下はどこいったのか……
 それは神様だけが知っている。


 ……待てよ。
「クロ、こっちへおいで」
 私がそう言うと、クロは嬉しそうに寄って来た。
 やっぱりクロは賢い子だ。
 こっちの言葉は分かるようだ。

 私はクロの鼻先に、靴下を下げる。
 テレビで見たことあるような探知犬みたいなことが出来るかもしれない。
 そう思って私はクロに靴下の匂いを嗅がせる
「ほら、クロ。
 これを探して」
「クンクン」
 クロは靴下をかいだ。
 こちらの意図は伝わったようだ。
 さすがクロだ。

 そしてクロは一瞬臭そうな顔をして(失礼な)、辺りを嗅ぎまわる。
 しばらく匂いを嗅いでいたようだが、急に顔を上げた。
 どうやら見つけたようだ。

「わん」
 クロは鳴いてから、とある場所に向かって走り出す。
 クロの向かった場所は、クロお気に入りのクッションがある場所。
 そしてクロはクッションの下を漁りはじめ、こちらを向く。
 私がクロの方へ振り向くと、なんとクロは探していた靴下を口にくわえていた。

 クロはこちらに走ってきて、私の前に靴下を置く。
 その顔はどこか誇らしげだ。
「おー、よしよし。
 偉いぞ」

 色々言いたいことはあるが、とりあえず褒める。
 本当に言いたいことがあるけれど、クロは命令を完遂した。
 ならば褒めるしかない。

「クロー、お前は賢いな」
 言葉とは裏腹に、私の胸の内ではある想いが芽生えていた。
 『今までに失くしたものが、あそこに眠っているかもしれない』と……
 クロの機嫌を損ねないよう、折を見てあの場所を捜索だ。

 私はクロに悟られぬよう、頭をわしゃわしゃして褒める。
「クロは何でも知ってるね。
 今度、なにか無くしたらクロに聞くことにするよ」
 無くし物は、神様ならぬ犬様だけが知っている。

7/5/2024, 2:49:08 PM