「君に会いたくて」
今日も忙しい一日だった。
残業したのに、残業代は出ないし、お客様からクレームはくるし、同僚や先輩から面倒な仕事を押し付けられるし、もう惨々だった。
そんな私の唯一の癒しは遠距離恋愛をしている彼氏·····由良(ゆら)だ。
由良とは、私がバイトをしている時に出会った。
私より少し年上だけれど、おっとりしている様に見えて意外に周りをよく見ているので細かいことに気づきやすく、気配り上手だ。
それに、年上なのか包容力があるので何かと落ち着くのだ。
彼は、仕事の都合で県外にいるため、お互いが忙しいこともあり、中々連絡を取り合うことが出来ない。
もちろん私も着いていきたかったのだが、その時には今の会社で働き始めていたため、せっかく苦労して入社したのに勿体ないと思って、しばらくの間だけだというので断ったのだ。
由良との連絡はお互いがゆっくりできる夜に短時間だけ言葉を交わす程度にしている。
いくら彼氏と言っても、長時間拘束したくないので二人で決めた時間だけ会話をする。
そんな短時間でも、私にとっては癒しのひと時だ。
今日も残業が終わると、颯爽と家に帰り、彼に通話する。
そうすると、すぐに繋がった。
「もしもし、ごめんね、残業で遅くなっちゃった·····」
自分が遅れたので謝らねばと思い、かけて早速謝る。
『ううん、全然いいよ、お仕事遅くまでお疲れ様』
彼は私が遅くなったことを気にも留めず、優しい言葉をかけてくれる。
そんな彼の対応に一瞬泣きそうになる自分がいる。
「やっぱり、由良くんの声を聴いていると疲れが吹っ飛ぶよ、いつもありがとね」
そう言いながら、夜風に当たりたくてベランダに出る。
『そう言ってくれて嬉しいなぁ、俺は自分の何処にそんな癒し要素があるのか分からないけど·····』
「·····もうこの会話自体が癒しだよ、由良くんの声を聴いていると·····会いたくなって、泣きそうになるの·····会えないのは分かっているんだけどね」
本当に泣きたくなるのを必死に堪え、慌てて元気な声を取り繕う。
『·····ねぇ、下を見てみてよ』
急に会話の途中で彼がそんなことを言い出した。
「急にどうしたの?」
私が疑問に思いながらも下を見ると·····そこには由良くんがいた。
突然過ぎて声が出ない。
『·····ただいま、君に会いたくて帰ってきちゃった』
彼は癒し笑顔ではにかむ。
「·····えっ、どうして·····しばらく帰って来れないって·····」
『うん、本当はそうだったんだけど、ここ数日、通話してて、俺の好きな人が何度か泣きそうになっていたから、無理を言って数日の間、休みをとって帰ってきたんだ』
彼の言葉から唐突に出た、“ 俺の好きな人”という言葉に追い討ちをかけられたように、私の涙腺は崩壊した。
私は思う、周囲の人から遠距離の恋愛はやめた方がいいって言われていたけれど、私はそうは思わない。
だって、彼と離れていた分、会えた瞬間の喜びは言い表せないほどに大きいものだから。
1/19/2026, 12:24:11 PM