茜屋 葵

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お題『流れ星に願いを』

︎ 空が泣いている。
︎ 炭と化したアイボリーで塗りたくられた夜空に、引っ掻くような切創が幾度と現れる。傷口からじわりと滲む煌めきはまるで姿を隠すように地平線の彼方へと飛んでいき、微かに残った傷跡さえ深い夜闇に溶けていった。それらは徒に現れては人類の視線を奪い、気付けば姿形を消してしまう。そして人類の願いをかき集めておきながら叶いもしないのだから、性根の悪さが窺えるだろう。さては悪魔か。
︎ 液晶画面に映し出されるアイドルのスキャンダルを呆れた様子で見つめながら、男は手元のスマホを流し見る。案の定、台風さながらの大荒れ具合だった。
︎ 芸能人を「スター」ともてはやす風習は、言い得て妙だ。貴重な体力と時間を消費してファンを魅了するその姿は確かに、夜空を彩る星々と相違ない。そして同様に、その正体は宇宙を漂う砂粒に過ぎないのだ。眩い輝きはいつか消え、後には何も残りやしない。しかしながら、それでも人類はどうしようもなく不相応な願いをその身に宿してしまう。リスクばかり考えるようになった壮年の男は、うんざりとした動作でスマホとテレビの電源を消す。闇夜のような液晶画面には、かつてのアイドルが映った。
︎ 夜空が泣いている。男の涙が、液晶画面を流れていった。

4/25/2023, 11:34:56 AM