七風

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「ところにより雨ってなんだよ」
テレビに向かってそう悪態をついてみる
放たれた言葉は誰もいない家の中に吸い込まれていく


恋人と出かける予定を立てていたのに、
「急な仕事が入った」と言って恋人は朝早くにバタバタと家を出ていった
俺はろくに送ることもできず早朝の薄暗い家に1人取り残された
そんなに早く起きてもやることも特にないので
リビングのソファーに座っておもむろにテレビをつける

番組のゆるキャラのようなものが、お天気お姉さんと呼ばれる女性と共に立って今日の天気を伝えている
「今日の天気はおおむね晴れ、ところによりにわか雨が降りそうです」
「お出かけの際は、折りたたみ傘をお持ちください」
そうお姉さんが笑顔で告げ、次のコーナーへと画面が切り替わる
「ところにより雨ってなんだよ」
そんな情報を聞いたって今日のデートはなくなったわけだし…
少し拗ねながらも朝食を食べ、今日1日何をするかを考える

録画の溜まっているアニメを一気見するか
まだ読めてない本を読んでもいいな
寝室の掃除もついでにやっちゃおう

なんて、考えると意外とやることはたくさんあって
恋人へのモヤモヤは少しずつなくなっていった


やりたかったことが一通り終わって、太陽が傾き始めた頃、外からポツポツと雨の音が聞こえてきた
ふと、朝早く出ていった恋人の姿がよぎる
「あいつ、傘もって行ったかな?」
なんて考えていると、机の上のスマホが振動した
画面をスワイプして電話をとる

「もしもし?どうした?」
「もしもし、今仕事終わって駅出たところなんだけど、雨降られちゃって… 傘もって迎えきてくれない?」
やはり恋人は傘を持たずに家を出たようだ
「んー、まぁ、ちょうど色々やり終わったところだし、いいよ」
「ありがとうー!!助かる!」
朝のことがあったからいじわるしてやろうかと思ったけど、惚れた弱みだ
急いで支度をして恋人を迎えに行く
駅に佇む恋人の姿に駆け寄り声をかける

「お待たせ、喫茶店とか入ってればよかったのに」
「ありがとう、まあ早く来てくれるって思ってたから」
「なんだそれ笑」
「あれ?傘一つだけ?」
恋人は大きな傘を一つだけ持ってきた俺を見て少し驚いた様子で聞いてきた
「うん、1つ。お前には濡れてもらおうかと思って」
「えー?そういうこと?それじゃあ迎えにきてもらって意味ないじゃん笑」
そう言いながら恋人は少し困り眉になる
「なんて冗談だよ、ほら入って、帰るぞ」
「相合傘したかったんだ、可愛い」
「…うっせ、朝の仕返しだ、お前が持て」
「あはは、はいはい、仰せのままに」
恋人は俺の手から傘を奪い一緒に歩き出す


帰り道の途中、何かを考えている様子の恋人が急に立ち止まった
「どうした?」
「雨」
「…?雨?」
「雨やんだね」
そう言われて傘の外に手を出す
確かにさっきまでポツポツと降っていた弱い雨は止んで、雲の隙間から太陽が少し見えている
「ほんとだ」
そう言いながらも俺は家の方向に足を進める
「…待って」
振り返ると恋人は立ち止まりこちらを見ていた
「ん?どうした?」
顔を伺いながらも恋人の元へと引き返す
「あのさ、」
「うん」
「朝はごめんね」
恋人はしょぼんなんて効果音がつきそうな顔でそういった
「別にしょうがねーだろ、仕事なんだし」
「ううん、しょうがなくなんてない。あのさ、朝の代わりになるかは分からないけどさ、今からデートに行きませんか?」
いきなりの申し出に戸惑い、少し止まってしまう
「いや、かな?」
「い、嫌じゃない!むしろ、行きたい」
「ほんと…?よかったー、断られたらどうしようかと思ったよ」
「そんなの、断るわけないだろ」
「うん、そーだね、よかったよかった」
恋人は傘をたたみ、そっと俺の手を握った

「それじゃあ行こっか、デート」
「うん」

たまには雨も悪くない…かも




お題:『ところにより雨』

3/24/2023, 4:34:36 PM