色野おと

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2023年12月22日。今日は冬至の日だ。
今日だけは必ず湯船に柚子を浮かべる。

冬至の柚子湯は物心ついたときから我が家の為来りになっていたので、この慣わしになんの疑いを持つこともなく従ってオトナになった。

柚子湯を知らない如何にも現代っ子という、田舎(親の生まれ育った実家)を持たない都会生まれの都会育ちの女性と所帯を持った。その新婚生活の初めての冬至の日に、お風呂の湯船の中に柚子を浮かばせたら

「へえ、いい匂いだねえ。柚子をお風呂に入れるのって聞いたことあったけど、そんなお風呂、今まで入ったことないなあ。ホントにカラダ温まるの?」

そんな問い掛けに、何云うでもなく微笑んでみせる。
いつか授かるであろう自分の子供には、オトナになったときに心豊かになる思い出・経験をいっぱいさせてあげたいと、そのとき密かに思ったものだった。

子供の頃は当たり前だった柚子湯に、オトナになって初めて拘りを感じるようになった。なにより、ゆずの香りが醸し出す情緒……湯船から立ちあがる温かい湯気の中で、生まれてこのかた脳裏に染みついた懐かしい昔のお風呂の匂いの記憶を思い起こす時間……それが堪らない。天井から落ちてくる雫が湯船の中に小さく音を立てる。それを聞くたびに幼い頃の記憶が鮮明に甦ってくる。

私にとっての〝ゆずの香り〟は、単なる柚そのものの香りとは違う。幼いときに過ごした家は昔ながらの木の造りの家で、土間があったり玄関控えの間があったり、お風呂といったら檜の壁に黒い天然御影石の床で、薪で湯を沸かす板張りの湯船だった。お風呂はそんな匂いが凝縮したような空間で、私にとってのゆずの香りの記憶もそんなお風呂の匂いがブレンドされたもの……

だからかな。そのような懐かしい匂い、私にとっての《ゆずの香り》を再現するのは今の時代、逆に贅沢すぎて出来ないからこそ、懐かしい記憶に浸りたくて、今もずっと冬至の日には柚子湯に浸かるのです。


テーマ/ゆずの香り

12/22/2023, 11:29:02 AM