【お題:放課後 20241012】
高校に入学して半年も経てば、周りにはチラホラと青春を謳歌する奴らが増えるわけで。
教室のあっちとかこっちとかで白やピンクや黄色の花を咲かせて、きゃっきゃうふふと自分の幸せをこれ見よがしに振りまいていたりする。
ここは学び舎で、勉強をする場所で、異性との不純な交際を人に自慢する場所ではないのだ!
で、結局何が言いたいかと言うと。
「リア充爆発しろ」
である。
俺は、小さく本当に小さく呟いた。
小学、中学と俺は東北の田舎で育った。
父親の仕事の関係で1、2年毎の転校を繰り返しながら。
小学4年くらいまでは、クラスに馴染もうと頑張っていたけど、直ぐに転校して疎遠になってしまうことを考えると無駄に思えて、それからは無理をしないことにした。
結果、親友なんてものは夢のまた夢で、友達はほとんどできず、ただのクラスメイトと元クラスメイトが大量生産されただけだった。
やることがないので、読書や勉強をして過ごし、気がつけば立派なぼっちの出来上がり。
せめてもの救いは、親から頂いた優秀な脳ミソのおかげで、勉強には困らなかったこと。
高校で転校は可哀想だという事で、父親からいくつかの選択肢を出された。
1、全寮制の高校への進学
2、父方祖父母宅から通う。この場合選べる高校は3校のみ(田舎のため)。
3、叔父宅から通う。この場合ある程度の家事はやる必要がある。
流石に一人暮らしは許可してくれなかった。
なので俺は【3】を選んだ。
叔父の家は都内にあり、高校への通学にも便利だ。
それに、大学へ進むことを考えれば1番いい環境だと思う。
家事に関しても、父子家庭だったので問題なくできた、というか得意である。
「あ、大根が安い」
アプリでスーパーのチラシを確認するのが俺の日課で、授業が終われば直ぐ様買い物をして家に帰る。
掃除と洗濯、夕飯の準備をして叔父さんの帰りを待つ間に勉強をする。
それが俺の日常だ。
そこに青春のせの字はない、いや、必要ない。
「ん?」
机の中に何か、入ってる?
そっと引っ張り出すと、それは封筒で⋯⋯、そう、封筒だ。
俺は周りを見渡して、もう一度手にしたそれを見る。
淡い緑の地に何かの植物と妖精が描かれていて、妖精の羽が虹色に輝いている封筒に書かれた俺の名前。
裏返してみるとそこにも植物と妖精がいて差出人のイニシャルが書かれている。
こ、これは、もしかして。
ラ、ラ、ラ、ラブレター、とかいう青春の1アイテムか!
あれか、あなたのことをずっと見ていました、的な?
いや、それとも、今日の放課後、校舎裏で待ってます、的な?
うわ、うわ、うわっ、ど、ど、ど、どうしよう、どうすればいい?
ここで読んでいいのか?それとも別の場所で読んだ方がいいのか?
あー、どうするのが正解なんだ!誰か、教えてくれ!
で、結果俺は今、校舎の外れの男子トイレの個室にいる。
そして手には例の封筒がある。
「⋯⋯⋯⋯」
高鳴る胸を抑えるように、深呼吸をしようとして思いとどまる。
ここは男子トイレだ、深く息を吸い込むのはやめた方がいいだろう。
俺は緊張で震える手で封筒の封を開けた。
中に入っていたのは1枚の便箋。
そっと、二つに折られた便箋を開く。
そこに書かれていたのは⋯⋯。
『今日は寒いと聞いたので、夕飯はおでんが食べたいな。
翔太の作るおでんは絶品だと兄さんが言っていたから、楽しみにしているよ。
追伸、今度販売するレターセットのサンプルを使ってみたよ。可愛いだろ?』
「⋯⋯⋯⋯」
崩れ落ちそうになる自分を叱咤して、俺は便箋を封筒に戻す。
泣いてなんかいない、ちょっと目から鼻水が出てるだけだ。
くそぅ。
「⋯⋯卵と竹輪、後は餅巾着とはんぺん、それにウインナーかな。煮込み時間足りないから、圧力鍋使って。今日は授業終わったらダッシュだな」
目尻に浮いた鼻水を拭って、俺は教室に戻った。
無駄にキラキラした封筒はカバンの中に突っ込んで、代わりに最近お気に入りの本を取り出す。
叔父さんはすごくいい人で、時折お茶目な事をする。
今回はそれが、ちょっと、アレな感じだっただけだ。
叔父さんが悪いわけじゃない、うん、そうだ。
叔父さんを見ていると時々未来の自分を見ているような気分になるけど、きっと気のせいだ。
そこそこいい所の会社に勤めて、それなりの役職について、都内の広めのファミリーマンションを購入して、車も持っている独身貴族。
叔父さんにそれとなく聞いたら、別に居なくても不自由してないから、とあっさりしていた。
確かにそうかもしれないけれど⋯⋯。
「叔父さん、それでも俺は結婚したいよ」
その日のおでんは、叔父さんには大好評だったが、俺にはちょっぴり悲しい青春の味がした。
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(´-ι_-`) レターセット、集めてたなぁ
10/13/2024, 1:58:08 AM