そんな時間はとうに過ぎ去った。 ここに存在するのは過去を想う亡霊だけである。
だとしても、ひとつだけ話させてほしい。 8月の終わりに私が出会った、運命の話を。
その日はとてもじゃないが外に出る気分にはなれなかった。 ぼんやりと画面をスクロールした先に、とある映画の広告が挟まった。
ああまたか、とうんざりしながらそれを視界の外に弾き出そうとして、手が止まった。 過去に愛した人が、主演を飾っていたからだ。
映画を見るつもりなんてなかったし、外にだって出るつもりはなかった、なんせ今年の夏は骨すら溶ける暑さだ。 でも、暑さで気が狂っていたんだろう、私は近くの映画館を調べていた。
まあ、言わなくても分かるだろうね。 私は映画を見に行った。 初めてだったよ、突発的にそんな事をするのは。
まだ席が余っていて、まだ上映時間が残ってた。ただそれだけだったんだ、理由は。
主演と別れた理由は話す必要もないし、それからコンタクトを取ろうともしていない。
けど、スクリーンの中生き生きと動くその笑顔に、私は運命が実在するんだと思い知らされた。
映画の内容はありきたりな人間賛歌、実に普遍的なテーマ。 それでも、過去に『発想が突飛で面白いやつ』と言われていた引きこもりを外に出して思考を変えさせるくらいには力があった。
もう9月が始まってしまったので、過去の話はやめて未来へと進ませてもらおう。 これから私は劇作家として再興するわけなんだが、是非君を主演にしたい。
ああ、プロットを読んで気が向いたらでいい、過去にどんな劇を書いたかなんて今からには関係がないからね。
私はただ、また始めたいだけなんだ。 運命によって引き戻された、私だけの人生を。
さて、邪魔したね、また出会うと確信を持っているとも。 だから、敢えてこう言わせてもらおうか。
これからよろしく。
9/1/2025, 3:17:45 AM