かたいなか

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「『ありがとう』も『ごめんね』も、双方、単品でなら昔のお題で書いた記憶があるわ」
去年の「ありがとう」については、バチクソ長い文章のお題だった筈だが、何十字であったか。
某所在住物書きは数ヶ月前対峙した長文を懐かしみ、天井を見上げた。
「今回は、ありがとうと、ごめんねのセットか」

同時に出てくる状況など、ソシャゲのサービス終了告知とか、軽く何か誰かに面倒事を手伝ってもらった時くらいしか、思い浮かばぬ。
物書きは「平素より」から続く文章をネット検索にかけた。 何か、ネタが出てくるかもしれない。

――――――

まさかまさかの、前回投稿分からの続き物。
最近最近の都内某所、手押しのおでん屋台、深夜。
ひとりの男性客が、既にごぼう巻きと、がんもを楽しんでおり、店主と談笑中。

「酷いじゃないですか。カラス前主任」
ひとり、別の男がのれんを分けて、入ってくる。
前回投稿分で藤森を、自分の同僚と勘違いし続けた男、「ツバメ」である。
「あなたが『支店倉庫には俺のお気に入りが居るかも』と仰っしゃったから、どんな局員だと思ったら。『ここ』の世界の一般市民じゃないですか」
「カラス」と呼ばれた先客は、ツボったらしく、爆笑。まさに、イタズラ的に騙したのだ。

今週イチの笑いをありがとう、ごめんね、でも本当に、ほんとうにありがとう。
ヒーヒー腹を抑えるカラスはご満悦。
「で、」
カラスが言った。
「俺はいつから世界線管理局に復職すれば良い?」

――…場面が変わり、翌日の朝。
前回投稿分でツバメの他に「混沌倉庫支店」を訪れていた、藤森の方に舞台と視点を切り変える。

藤森はお天道、もとい緒天戸とともに、
彼等の仕事部屋で、椅子に座る己の上司の後ろに立ち、あわれな意地悪従業員をまっすぐ見つめている。
自分より若くて高待遇な者にばかりイヤガラシをする総務課職員、「五夜十嵐」という。

「申し訳ありませんでした」
五夜十嵐は己の為した悪事について、緒天戸から追求を受けていた。藤森が悪事の証拠を得たのだ。
「勘違いだったのです。てっきり効力が切れているとばかり思っていました。藤森は『この部屋の掃除』で忙しいだろうから、代わりに書類を」
藤森の代わりに、不要な書類を破棄してやっていたのだ――と、言い終える前に、藤森が一歩前へ。

「つまり、有効な契約と失効した契約の書類の区別が、五夜十嵐課長補佐ご自身、ついていないと」
藤森に対する五夜十嵐の悪質なイタズラ、イヤガラシは、つまりこうであった。
藤森が取ってきた契約の書類のいくつかを倉庫支店に捨て隠し、これによって客からの印象を、どん底に落としてやろうとしたのである。
「正直に仰っしゃってください。あなたがご自身の契約書類に関しては、正確に破棄期間を理解していらっしゃるのは、既に把握しています」

「客に迷惑がかかる方法で、まぁ期間限定だけどよ、それでも『俺直属の部下』をイジメるとは。
随分、ずいぶん、恐れ知らずだなぁ。五夜十嵐」
椅子に座り直し、満足そうに指を組む緒天戸は、
藤森の上司であり、かつ、五夜十嵐の上司。
この職場のトップ。最上の役員であった。
五夜十嵐は己の雇い主に、己の悪事がバレたのだ。

「藤森!許してくれ!すまん!」
職を失うかもしれない。緊張と恐怖に五夜十嵐は、勢いよく頭を下げ、膝を折り、床に手をつけた。
「どうか!どうかチャンスを!今一度!
お前はよくよく、この部屋を総務課の代わりに、キレイに掃除してくれる。感謝しているんだ!
お前は優しいとも聞いている!もうこんな嫌がらせはしない、すまん!たのむ!」
今までのキャリアが、今の地位と金が、それを所持しているために享受できる優越感が。
五夜十嵐はどうしても、手放せない。

「どうする、藤森?」
つっても、俺の中では処遇は決まってるけどよ。
敢えて藤森に聞く緒天戸は意地が悪い。

「謝罪については、ありがとうございます」
藤森は言った。
「しかし、すみません。
あなたが私以外に、過去何年も、何人も、
似た手口で悪事を働いている証拠も、有るので」
ありがとう。ごめんね。 藤森は淡々と、誠実に、あわれな職員の所業リストを提示した。

12/9/2024, 3:56:20 AM