星を眺めるために、ちょっと頑張って良い望遠鏡を買ってみた。この人生、空など見上げる暇さえ無かった。けれど、ある日ネットで見かけた、星の軌跡をうつした写真がどうにも俺の心を掴んで離さない。美しく輝く彼らを間近で見ることができたなら、どんなに素敵だろう。
そう思って始めた天体観測は、意外にも困難をきわめた。調整が上手くいかないというのはもちろんだが、天気が悪かったり、仕事で疲れていると望遠鏡の前に座ることさえ出来ない日もあった。それでも、少しくらいぼやけていても、星たちは美しかった。
あるとき俺は仕事でヘタをうった。文字通り命からがら追手から逃げて、逃げて、力尽きて、冷たいコンクリートに体を投げ出した。夜空はよく晴れていて、星がよく見えた。俺が毎日、懸命に眺めようとした星たちは、望遠鏡などなくてもその姿をいつも見せようとしていたのであった。
走馬灯にはクソったれの人生のかけらと、たくさんの星が散りばめられていた。
11/19/2024, 5:37:55 AM