300字小説
俺の理想郷
そこは我々にとっての理想郷だと言う。夏は涼しく、冬は暖かく、適度に遊べるおもちゃがあり、美味い飯がある。それらを従順な下僕が全て用意してくれるという。
「……まあ、そんな理想郷で暮らせるのは血統の良い美猫だけだろうけど……」
寒風の中、うずくまる。ああ……これはもう目覚めないだろうな……と思いつつも俺は目を閉じた。
「へ~。これがその道端で拾った猫なんだ」
「そう。拾ったときはボロボロだったけど、すっかり毛並みも良くなって安心した」
「にゃあ」
「ダメ。ご飯は後で」
柔らかな手が俺の頭を撫でて、抱き上げる。
「にゃあ」
あの寒風の夜から三ヶ月。飯は望みどおりにはならないが、どうやら、ここが俺の理想郷らしい。
お題「理想郷」
10/31/2023, 11:41:19 AM