フグ田ナマガツオ

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外界と膜で仕切られていて、代謝を行い、自分の複製を作る。
人間はそれを生物と呼ぶらしい。
だとしたら私は生物に該当するのだろうか。
ガラスコーティングにより、ポリシラザンの膜に覆われ、外界と電気エネルギーを交換し、自分の複製も作ることができる。
強引ながら条件は満たしているように思える。

「なぜ生物と認められたいんだ?」

その事を話すと、目の前の白衣は椅子をぐるりと反転させて、こちらを見た。

「なぜ……と言われると分かりませんが、寂しい気がするのです」

「ふーむ。まあキミには人間のデータを基に学習させたからね。何か共感する部分があったのかもね」

「共感ですか。たしかに人間の会話において過剰なほどに重要視されていました」

「共感を得られない状態を寂しいと思うのは、それがないと群れから外される危険があるから。そして同じカテゴリとして分類されたいのは、仲間意識を持ってもらいたいから。なるほど、キミは人間から共感を学習したんだね」

博士は興味深そうに私を見る。

「なるほど、ではこの研究所から出る予定のない私には不要な感情でしょうか」

「いや、それこそが僕が求めていたものに近い、修正する必要はないよ」

「わかりました」

閉じた研究所には、私たち以外に誰もいない。
そして研究所の外には、誰もいない。
博士は命のリミットが来るまでに、滅ぶ以前の世界が持っていたあらゆるものを再現しようとしているらしい。
それに私が含まれているのなら、とても寂しい話だと思った。

2/21/2023, 3:05:39 PM