にや

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日付が丁度変わり、深夜0時。

残暑の残る9月半ばでも、この時間になれば幾分和らぐ。海風がひんやりと崩したスーツをはためかせる。

「ここが海神様が出る海ですか…。」

水死体が引き揚げられている場所と近いといえば近いが、少しだけ入り込んだ場所にある。

「引き揚げ場所と離れてるのは、潮の流れのせいだろうな。」

スーツを肩に引っかけた鳶田が防波堤の上を歩きながら一人言のように呟く。

工業地帯と山の隙間。工業排水のある場所のせいか、人通りは昼でも少ない。

秋口とはいえ、暑さの残る季節。それでも鑑識官の守山は鳥肌が立っているのを感じていた。

テトラポッドの隙間から飛沫をあげる波が、蠢く人の手のように見えるのも、時間帯のせいだけではないだろう。

「幽霊の出るお約束は丑三つ時。海神様が出るのは黄昏時。この時間は不気味なだけで何もないさ。」

両腕を摩る守山に気づいてか、目黒が肩を軽く竦める。先ほどのような、からかいの素振りはない。

「丑の刻参りって知ってる?」
「藁人形を打ち付けて呪うやつですよね。」
「そう。かなり有名だよね。それの正しい呪い方って知ってる?」
「え、いや…藁人形を打ち付けるだけじゃダメなんですか?」
「そんな簡単に呪えたら世の中不審死だらけだよ。呪いってのはそれなりの覚悟が必要だからね。」

エンジンを切らずに停めている車のラジオから、ミッドナイト通信の間抜けな時報が響いた。

「恐らく、海神様への呪いも、願いを書いて流すだけじゃない。」

漆黒の中でも、興奮した目黒の目がギラギラと輝いているのは分かった。



1/27/2024, 9:44:31 AM