一ノ瀬

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「たとえば私が罪を犯して逃亡するとして」
「なんですかそのイカれた導入は」
「そのときは君も付いてきてくれる?」
 イカれた導入をイカれたままに続けた先輩は言う。僕は一瞬だけ考える素振りを見せてから「いいですよ」と快諾する。
「どこに逃げるんですか」
「世界中、いろんな国に行こう。時々警察に追いかけられたりしながら。いざとなったらどっちかが囮になろうね」
「国際指名手配犯なんですか?」
 一体どんな規模の犯罪をする想定なんだろうか。先輩はにんまりと笑っていて、その脳内ではきっと完全犯罪が計画されている。何でもうまくやる人だからきっと計画は成功して、僕との逃避行もきっと実現はしないんだろうと思う。
 それでも、少しだけ好奇心が湧いて、先輩にそっと近寄る。囁くようにしながら「どんな犯罪をする予定なんですか」と尋ねてみる。先輩は内緒話をする子供みたいな目で笑う。
「あのね、君を誘拐して海外に連れ去っちゃう計画なんだ」
 僕は呆れて、うつむき、顔を手で覆ってため息をついた。そりゃあ大変な犯罪だ。計画はスムーズに完遂され、僕達は警察に追われることなく無事にこの国を脱出し、笑っちゃうくらい愉快な旅路の果てには、きっと楽しい思い出だけが残ることだろう。

1/31/2026, 1:36:30 PM