【2023/03/25 8:00 書き上がりました!】
胸が高鳴る。
こんなに自分の鼓動を感じるのは久しぶりで、
ああ、私は生きているんだな、
なんて、現実逃避をするように頭の片隅で思う。
目の前の状況から意識をそらすことが出来ない。
…何故君は、私がお風呂に入ってるのに、何の問題も無いみたいに普通に入って来ちゃうの…!?
---あの後私達は、他愛も無い話をしながら
手を繋いで君の家までの道を歩いた。
「この近くの公園の桜が綺麗に咲いてるんだよ」
「一昨日、ここで鮮やかな黄緑色の鳥さんを
見かけたんだ。何ていう鳥だったんだろう…。」
「あのお店のパンケーキがとっても美味しいの!」
今度、一緒に来ようね。
くるくると表情を変えながら、
私に色々なことを教えてくれる君。
月明かりに照らされた周辺の景色を二人で眺め、
目を合わせて笑い合う、穏やかな時間。
君と行きたい場所が、
近い未来に二人で過ごす約束が、増えていく。
きっと普通なら本当に何でもない日常の会話。
でも今の私には、
それら一つ一つが宝物のように大事に感じて、
泣きたくなりそうなくらい心があたたかくなる。
「そうだね。今度、一緒に行こう。」
そう返すことのできる幸福感に浸りつつ歩き続け、
君の家へ着いた。
どちらともなく繋いだ手を離し、
君が鍵を開ける様子を何となく眺める。
君と一緒だから、歩幅を合わせていつもよりゆっくりと歩いたはずなのに、随分と短い時間に感じたな。
…それもまた、君と一緒だったから、なんだろうね。
「…どうぞ。ちょっと散らかってるけど、入って。」
「ありがとう、--。」
完全に浮かれているな、と自覚しながら、
君が開けてくれた薄紫色のドアを潜り、中へ入る。
玄関から続く廊下に腰を下ろし、
ブーツを脱ごうとすると。
「リビングは入って左、お手洗いは右にあるからね。
私は先に行ってちょっと片付けてるから、
--はゆっくり来て!」
「そんなに気にしなくて良いからね?
…でも、ありがとう。」
言うが早いか、私の言葉を聞き終わらないうちに
君は行ってしまった。
脱いだブーツを端の方に揃えて置き、
玄関先の靴箱の上に飾ってある装飾品に目を向ける。
星の形をしたテーブルランプが、
ガラスでできたシンプルな写真立てを照らしている。
…私達が展望台へ遊びに行った時に撮った写真が
飾られていた。
塵一つ被っていない写真立てを手に取り、
笑顔で写っている私達の写真をまじまじと見る。
…私は、どれだけ
君のことを傷付けてしまったんだろう。
今更ながらに、何の相談もせず
君を置いて行ってしまったことを後悔する。
暫く写真の中の君の笑顔を眺めながら物思いに耽っていると、君の声が私の名前を呼んだ。
「--!大体片付いたから、もう大丈夫だよー!」
「…ありがとう!今行くよ…。」
写真立てを元の通りに置き直し、
しっかりと手を洗ってうがいをしてから
--の声がした方向へ向かう。
「…--。あのね、ちょうど美味しいお酒を
お隣さんに貰ってたから、
--と一緒に飲みたいなって…。」
ホワイトウォッシュの豆型のローテーブルに、
連なった雫が星から零れているような模様が施された、グラスの下が緩やかに膨らんだタイプの
シャンパンフルート。
いつの間に作ったのか、
簡単なおつまみまで用意されている。
「…ふふっ。そうだね。
私もまだ君と話していたいよ、--。」
「ふふ、…バレちゃった?
もっといっぱいお話ししよう、--!」
そうして私達は、今まで離れていた間の時間を埋めるように、春の夜を語り明かした。
………と、思ったけど、
お酒に弱い君は途中で眠ってしまったので、
座っていた淡いピンク色の四角いクッションを枕に横たえて、私が着ていた上着を掛ける。
…少し寝かせておいてあげて、
お風呂を借りようかな。
---そうして、
手洗い場の先にあった浴室でシャワーを
浴びていたら、一糸纏わぬ姿の君が扉を開けて…
今に至る。
「…えっと…あの、…--?」
「…--…。」
私の名前を呼んだ君が、ゆっくりと近付いてくる。
「ちょっと待って!--、君は女性なんだよ?
いくら私が汎だとはいえ、そんな…」
「--。どうしてあなたがここにいるの?」
「えっ?…それは…、」
「…こんなところにいたんだね、--。」
ずっと探してたんだよ?
くしゃりと泣きそうに顔を歪めた君が、
私に手を伸ばし、そのまま背中へ腕が回って
抱き締められる。
「どうして…いままで、どこにいってたの?」
なんで…。
そう繰り返す君に、
胸がきゅっと締め付けられるように痛んだ。
--は、酔っている。
それは確かだが、今告げられているのはきっと、
私をずっと探し続けてくれていた--の気持ちだ。
何と返せば良いのだろう。
一緒に帰ってきたじゃないかと?
展望台で話したじゃないかと?
そうじゃ無い。
私は君に腕を回して抱き締め返し、
精一杯心を込めて伝えた。
「…--。私はここに居る。
これからは、ずっと一緒だから。
もう、何処にも行かない。
何処に行く時も、ずっとそばにいるから…。」
本当に、ごめんね…。
私を見つけてくれて、ありがとう。
---二人でシャワーのお湯を浴び、
その雫が床を打つ音を聞きながら抱き締め合って、
どれくらいの時間が経っただろう。
君は再び、私の腕の中で眠りこけてしまった。
その表情は先ほどより幾分か穏やかそうに見えて、
ほっとする。
私は君を起こさないようにそっと抱き上げ、
バスタオルで手早くお互いの身体の水気を拭き取り、
寝室を探す。
大きめの星型の壁飾りが掛かったドアを見つけて開いてみると、天井からふんわりと天蓋カーテンとガーランドライトが吊るされている、ベッドのある部屋があった。
ゆっくりと君を横たえて、自分もベッドに入り、
寒くないようにしっかりと布団を掛ける。
…本当なら何か着た方が良いだろうが、
どこに何があるか分かっていないのに、ごそごそと引き出しを開けてしまうのも良くないだろう。探しているうちに君の身体が冷えてしまうかも知れない。
今日はもうこのまま寝てしまおう。
「…おやすみ、--。」
また明日、ね。
目覚めた君がこの状況を見て驚き、
これ以上無い程胸を高鳴らせるのは、また別の話。
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※文中に出てくる「汎」という単語は、
男性でも女性でも無い、汎性という性別のことです。
(『私』は私の好きな作品に出てくる子をイメージして書いており、汎性については原作内の設定です。)
書きたいことを書きたいように書いていたら
一日一文の量じゃ無くなった…😇
読んでくださった方はありがとうございます。
お題の胸が高鳴る、は希望や期待などの為に興奮して胸がどきどきすること、らしいので、この話の場合驚きでどきどきしてる方が大きいからちょっと言葉の使い方違ったかも知れないんだけど、この話になってしまった。許してください🤣
3/21/2023, 9:38:57 AM