Morita

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特別な夜だからといって、別に何か特別なことを求めているわけじゃない。

まあ、昼間に婚姻届を出して、めでたく夫婦になって初めての夜だけども、これまで同棲三年、付き合っていた期間は二年、よき親友だった期間は十年。

つまりは学生時代からの幼馴染で、結婚する前から既に熟年夫婦感は出ている気もする。

プロポーズは「キミちゃんに似合うと思ってわざわざ取り寄せたんだ」とか言っておやつのカールを指にはめられて二人でゲラゲラ笑ったし、なんかもう、そういう感じだから。

別に何も期待してないし。明日月曜日だし。お互い仕事だし。

「なに?」

視線に気付いたのか、洋介は皿洗いの手を止めて顔をあげた。

「なにも?」

こういう気取らないところも好きなんだし。

皿洗いをする洋介を横目に、リビングのソファに座る。と、お尻の下からグシャッと嫌な音。

「うわっ!」
「ちょ!」

ソファカバーをめくると、そこには一封の洒落た封筒。潰れてるけど。

洋介が慌てて駆け寄ってくる。

「なんでそこ座るの!」
「なんでって」
「いつもそっち座らないじゃん! なんで今日に限って!」

彼はエプロンで手を拭いて封筒を手に取った。
隠すにしても、よりによってなぜそんなところに。問い詰めたい気持ちは山々だが、それよりもまず。

「それは?」
「ああ、もう……」

洋介はできる限り封筒の形を整えてから、私に差し出した。

「宣誓書」
「せんせいしょ?」

あ、まばたきが増えた。緊張しているらしい。

「キミちゃんのこと、ちゃんと幸せにしますっていう」

真面目か。意外だ。
なんだか気恥ずかしくて、おかしくなって、照れ隠しに背伸びして頭を撫でてやる。

「ま、二人で頑張っていこう」

【お題:特別な夜】

1/21/2024, 2:17:32 PM