『麦わら帽子』2023.08.11
風に麦わら帽子が舞う。それが遠くに飛んでいく前に、手を伸ばして捕まえた。
追いかけてきた持ち主であろう女の子に返してやると、彼女は嬉しそうに笑ってお礼を言った。
今度は飛ばされないように帽子を抑えて、彼女は母親らしき女性の元へ駆けていく。会釈する母親にこちらも会釈して、女の子に手を振った。
仲良さそうに去っていく背中を見送って、オレも帰ろうかと踵をかえすと、そこに彼がいた。
「久しぶりだな」
いかめしい顔に笑顔を浮かべた年上すぎる彼。彼もまた麦わら帽子を被り、涼し気な甚平を着ている。
「どこのじーさんかと思った」
嫌味を言ってやると、彼は快活に笑って流し、被っていた麦わら帽子をオレに被せた。
「暑さにやられても知らんぞ」
「うっせぇ」
そうやって憎まれ口を叩いても、彼は笑うだけだ。
そして手に持った紙袋から、ヘンテコなというかいかがわしい形の置物を取り出してオレに渡してきた。
「お土産だ。今回はアメリカに行ってきた」
「絶対、アメリカでなくても買えるだろ」
「面白いだろう? 」
茶目っ気たっぷりにそんな事を言う彼に、お土産よりも彼の顔を見れたらそれでいいと言いかけたが、恥ずかしいので口に出すのはやめた。
聡い彼にそれがバレないように、オレは麦わら帽子を目深に被った。
8/11/2023, 1:24:45 PM