望月

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《繊細な花》

 野花ほど、その言葉の似合うものはないだろう。
 何故って、理由は簡単。
 道端に咲いている小さな花なんぞ、人が一瞬で踏み荒らすことができる。
 摘んでしまえば尚更、一瞬にして世界から『野花がそこに咲いている』という事実を消し去る事ができる。
 誰かの何気ない行動で花弁を散らす、その繊細さは言うまでもない気がするのだ。
 けれど、繊細なだけかと言われればそうでもない。
 寧ろ、強かな花であるとも言えるだろう。
 また、か弱い少女というのもまた、それと似ている。
 細腕で思わぬ剛力を発揮するやもしれない。
 つまりは、繊細に見えるだけの花もそうでない面を持ち合わせている、と思うのだ。

「今回の話はまあまあね」
「お気に召されませんでしたか……」
「まあまあ、と言ったのよ。聞こえなかったかしら?」
「申し訳ありません、陛下」
「次はきっと、面白い話であって頂戴ね」
「……必ずや」
「語り部」
「はい? いかがなさいましたか、陛下」
「楽しみにしているわ」
「……ありがたきお言葉」

 知を、想いを、好む不可思議な女王が居る。
 その噂の真偽や、如何に。

6/26/2024, 9:52:34 AM