こうして手紙を書くのは久しぶりね。最後に書いたのは確か、去年の君の誕生日だったかしら。
すごく唐突かもしれないけど、驚かないで聞いてね。今だから言うけれど、私ね、ずっと前から君のことが好きだったのよ。君に恋人が出来た時、初めてそれを自覚したの。馬鹿よね。私、何の疑いもなく信じていたのよ?君とは死ぬまで一緒にいられる、なんて。勝手にそんなことを思っていたの。だって、君と私は似た者同士だから。
でも実際は、君と私は全然違ったし、君は私の隣からいなくなった。当たり前よね。結婚するってそういうことだもの。家庭を持つってことは、友人より優先すべきものが出来たってことだもの。
あんなに人間不信だった君が、私の知らない誰かと幸せそうに笑っているのを見ると、正直苦しくて堪らないわ。心のどこかでは確かに祝福しているはずなのに、大半は呪いみたいな黒いものが淀んでいて、嫌になる。あの時、君と出会えた奇跡があったから、今私は此処にいられるのに、今はあの時死んでいれば、なんて考えてしまうの。君と出会えたから、誰かを好きになる幸福を知れたけど、そのせいで自分の度し難い醜さにも気付いてしまったから。
物語を書くことは、私にとってのアイデンティティで、君のために今までたくさんの物語を書いてきたけど、もう終わりにするわ。君がもう、物語を読まなくなったから。読む必要がなくなったから。
知らないでしょ?私が寝る間も惜しんで書いていたこと。君の喜ぶ顔が見たくって、書き続けていたこと。これからも、ずっと、死ぬまで書き続けたかったこと。
たったひとりの読者のための物語は、これで終幕よ。
この手紙を君が読み終える頃には、私はもう君と同じ世界の空気は吸っていないでしょう。言葉も声も届かない場所で、後悔と懺悔にくれていることでしょう。いっそ、願われない流れ星になって、燃え尽きてしまえたら幸せね。
言われるまでもないと思うけど、伴侶のことは大事にするのよ?君がこちら側に来るのは、満腹になるまで幸福を味わってから。でないとそれこそ、本当に呪うのだから。
じゃあね、
そこで慌ててる馬鹿な君、手紙は最後までちゃんと読むものよ?カレンダーはめくったかしら?そう、今日は“エイプリルフール”。嘘吐きの日。
ふふ、ごめんなさいね。今私、ひどい悲劇のような喜劇を書いているから、こんな嘘しか吐けなくて。
執筆が落ち着いたら、そのうち君の新居に遊びに行かせてもらうから、その時はまた、君の話を聞かせて頂戴。
4/1/2023, 9:30:38 PM