sairo

Open App

「ごめん。もう一回言ってもらえる?」
「だから旦那ができたの。あの時の宮司様」
「その前。誰とその神社に行ったって?」

指を差される。もちろん記憶にはまったくない。
そもそも週末には学校にすら来ていない。

「行ってない。週末はいつもの発作で学校休んでたし。当然連休はいつもの病院で過ごしましたが?」
「え?じゃあ、誰と行ったのさ。あーちゃんの後の誰か?」
「後ろの誰かってなんだ、誰かって。つか、ほんとに誰と行ったよ」

また指を差される。だから行ってないと言っているのに。
彼女の言う後ろの誰かの心当たりはある。カフェで出されるお冷が人数よりも多いとか、一人でいても誰かといたと思われるとか、心当たりしかない。
それはもう仕方ない。どうにもならない事であるし、もう慣れてしまった。
だがそれは私がいる場所に限った事であって。
私の存在しない場所に、私がいるというホラーまっしぐらな状況は困るのだ。とても。とても。
バレてしまったら寺送りにされてしまう。それだけは阻止しなければ。

「あー、やっぱあれかなぁ。神様があねがどうたら言ってた気がするし」
「そこ大事なやつじゃん!詳しく!」
「覚えてない。宮司様に会えてそれどころじゃなかったし。色々混乱してたし」

肝心な所の記憶をすっ飛ばしている友人に、思わず舌打ちする。まったくもって使えない。

「悪かったって。でも一緒に帰って来てないし、今神社にいるんじゃない?」
「それってさ、あたしを置いてきたって事になんだけど?ニセモノじゃなきゃさすがに絶交してたわ」
「だっていつのまにかいなくなってるんだもん」

笑いながらごめんと謝られる。悪いと思っていない事は明白であるし、おそらくニセモノだと分かっていたのだとは思うが。
何一つ解決にはなっていないものの、すでに近くにいないのであればしょうがない。これ以上話が広まらなければバレる事もないだろう。

「今度さ、一緒に宮司様のとこ行かない?後ろの誰かとか発作の事とか視てもらおうよ」
「今度ね」

曖昧に言葉を濁して笑う。見てもらった所で、というやつだ。
私だけ数が合わないのも。私だけ発作が起きるのも。私だけ今回のようなよく分からないものに巻き込まれかけるのも。
すべてが解決する訳ではなく。すべてを明らかにしたい訳でもない。

「今度、機会があったらね」

今度、を繰り返して机に伏す。
次の授業まで時間はある。少し眠っていても問題ないだろうと。
彼女を放って目を閉じた。



20240719 『私だけ』

7/19/2024, 9:25:33 PM