『たった1つの希望』
9回裏ツーアウト、ランナー二・三塁。スコアは1-2。
異様な緊張感が漂うグラウンドに、キュッと引き締めた顔のアイツがバッターボックスに入る。今日は、自慢の打撃が鳴りを潜めている。
眩い夏、最後の大会。汗水流しユニフォームをどろどろにしながら必死に白球を追いかけた三年間、俺たちは勝ちを知らない。ただ弱かった。それでも、名門校に負けないくらい、毎日休まずに練習を続けた。同じ運動場を使うサッカー部のヤツらは大笑いしながら、どうすれば大技を決めることができるかで盛り上がっていた。陸上部は、顧問の先生にバレないように手を抜く方法を話し合っていた。
俺たちは大技も練習のサボりかたも覚えなかった。地味でつまらない練習の積み重ねが、平凡な自分たちを高みに連れていってくれると信じていた。その中でも、アイツはひたむきにバットを振り続けた。努力の天才だった。公式戦で勝ちがないチームで、アイツだけは通算打率が3割を超え、夏の大会直前にはホームランも記録している。他のメンバーではできないことでも、アイツなら何かを起こしてくれそうな気がする。
カキーン
打球はきれいな弧を描いて左中間にーー
頼む、抜けてくれ!
お前と俺たちの夏がここで終わっていいはずがない。
3/2/2026, 1:24:06 PM