【夢の断片】
夜風に煽られながら駅前の階段を上っていくと、ふいに懐かしい声が降ってきた。
振り返れば、昔と変わらぬ笑い方で手を振る友人の姿があった。
互いに歳を取ったはずなのに、目が合った瞬間だけは学生の頃の空気が戻り胸の奥が急にざわついた。
居酒屋に入るなり、あいつは相変わらずの調子で近況をまくし立てこちらも負けじと笑いながら話を返す。
店内の喧騒がいつの間にか心地よいBGMになり、グラスが触れ合うたび遠ざかったと思っていた日々の熱がほんのり蘇る。
冗談を言い合えば、たわいのない会話の向こうに青春の断片がふっとよぎる。
互いに夢を語り合っては、くだらないほどに笑い転げていたあの夜の匂いまで。
帰り道、並んで歩きながらふとあいつが空を見上げた。
街明かりに薄く霞む星を指し、「俺ら、昔こういうとこでバカみたいに夢語ったよな。」と言う。
その言葉に不意に胸が温かくなる。
叶った夢もあれば手からこぼれた夢もある。
でも、こうして笑い合えるならそれらは全部まだ道の途中に散らばっているのかもしれない。
別れ際、軽く拳をぶつけ合う。
何も約束しないまま、それでも「また会おう」という気配だけが、夜の道に静かに残った。
まるで拾い集めた夢の断片が、もう一度つながろうとしているように。
11/21/2025, 1:54:07 PM