ゆかぽんたす

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「協力してくれる?」
誰もいない放課後の教室。彼女が私に向かって言ってきた。すぐには反応できなかった。何か言わなきゃ。考えてるうちに彼女がまた口を開く。
「……だめ、なの?」
悲しそうに私の方を見つめてくる。両手を胸の前で組んで、眉をハの字に下げて。心底辛いというふうに。そうやって、あの人の前でも演じてたんでしょ。でも彼にはそのお得意の媚びた顔が通用しなかった。だからあんたは彼が欲しくなった。それは愛なんかじゃない。自分のものにならないからってムキになってるだけのねじ曲がった自尊心よ。
「ごめん。できない」
はっきり言ってやった。途端に彼女は不機嫌そうに顔を歪める。私の断りを素直に受け入れてくれるような人じゃないと、何となく分かっていたけどあからさまに嫌な顔されるとこっちも気持ちが沈む。さっきまでと打って変わって、私を敵視する目つきに変わっている。まさか私が、いいよ、と言うとでも思っていたのか。何でも自分の思い通りに行くと思うなと、言ってやりたかった。だけど、思うのと口に出すのはかなり違う。私は彼女の要望を断るけど、彼女を傷つけようとは思わない。そんな真似したら私もレベルの低い人間に成り下がってしまう。何よりも、そんなことをすればあの人からも間違いなく幻滅される。そんなのは嫌だ。あの人にだけは拒否されたくない。まだ自分の気持ちを伝えてないうちから、そんなふうに思われたくない。
「じゃあ、行くね」
私のことを睨みつけてくる彼女の隣を通り過ぎた。直後に嫌な舌打ちが聞こえた。結局、それがあんたの本性なのね。
「友情よりそっちを取ろうって言うの?」
教室をでる直前に後ろからそう喚かれた。何それ、と思わず聞きたくなる。一体何処に、友情があるんだって。何から何まで失望する。いや、失望とは、相手に希望を持っていたのにそれを裏切られた場合に起きる感情だ。だったらこれは違う。私は彼女に希望を抱いたことなんて1度もない。
「悪いけど、私にも譲れないものがあるの」
あんたが面白半分に手に入れようと思うなら全力で阻止するから。私はそんな生半可な気持ちじゃないの。それだけ本気だから。だから絶対譲らない。

9/12/2023, 12:53:13 PM