憂一

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『楽園』

日が暮れてからもしばらく歩き続け、少年と少女は楽園と呼ばれる地へたどり着いた。
あたり1面ネモフィラが咲き誇り、ホタルのようなものが飛び交っていた。
景色に見とれる少年に少女は語る。
「すごくきれいでしょ?この光はみんな妖精なんだよ。」
ホタルに見えていた光の粒をよく見ると、光の中に人のような形をした影が浮かんでいた。
「楽園って呼ばれるようになったのはね、実は最近のことなんだ。それまでは失楽園って呼ばれてたの。」
景色に見とれていた少年は興味深そうに少女の方を向いた。
「ここにいる妖精達はもともと人間なの。悪いことをした人間。やってはいけないことをした人間はほかの人々と同じ世界に住むことを許されなくなって、ここで妖精になるの。だから、妖精といってもそんなに可愛いものじゃないのよね。」
少女は止まらず語る。
「私たちが暮らす素晴らしい世界、つまり楽園を追放された妖精が住む場所だから失楽園って呼んでたんだけど、世界がどんどん悪いものになって、妖精教が生まれて、この世界の苦しみから逃れるために妖精になることが救いなんだってみんなが信じるようになって、それからはここは楽園なの。」

4/30/2024, 12:02:17 PM