どこかの人

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「ここではないどこか遠くへ行きたい」

(ピーンポーンパーンポーン)
「2番ホームから電車が発車致します。ご注意くださいませ」
私は吸い込まれるようにこの電車へ乗った。
お金も少ししかなく、降りる駅も決めていない。
生憎、電車に乗っている人は数える程だけだった。
「ねぇ、あなたはなんでこの電車に乗ったの?」
突然隣に座る人から声をかけられた。
「急にごめんなさいね。なにせ、この電車は人生に迷った人だけが乗れるのだから。」
え?この電車は普通の電車じゃないの?
そう思っていると彼女は続けた。
「この電車は新たな人生の出発点を見つける電車なのよね。運賃もただで降りたい時に降りるんだよ。」
意図せずそんな電車に乗っていたとは、、
「あなたは何で悩んでいたの?」
私は親からの日頃の暴力や圧から逃れるために家を飛び出していつの間にかここにいた。
そのことを彼女に告げた。
「そりゃ逃げたくなるよね。私は職場の人からのセクハラやパワハラで逃げてきたの。」
私と少し似た境遇だ。
「この電車に乗ってはや三日、まだ私は新たな人生が定まっていないのよね。食事とかシャワーとかは常備されているから生活に支障はないんだけどね。でもなんで全部無料で電車の中にシャワーがあったりするんだろう。どうやって電車を動かしてるんだか」
色んな疑問が浮かぶ。
「あ!そういえば、あなたはまだ学生みたいだけど夢とかある??」
ゆめ、、か、
受験勉強に追われ点数が低いとぶたれる。
いい点を取ることで両親の機嫌が良くなる。
あれ、夢ってなんなんだろ。
「もっと世界を見てみようよ!」
黙り込んだ私を見てすかさずそう言った。
「医者や弁護士やスポーツ選手、大工さん、学校の先生、言いきれないほどいっぱいあるんだよ!」
私って何になりたいんだろ。
世界に目を向けていなかったからなぁ。
「私はね、歌手になりたいんだ!歌手になってたくさんの人に私の気持ちを伝えたい。今までの辛い人生を共有したいと思ってる!」
歌手、、か、
今日出会ったばっかりなのに何故か応援したくなる。
いつか彼女の歌を聞きたいな。
(ピーンポーンパーンポーン)
「まもなく唄町です、お降りのお客様は電車が停車してからお立ちくださいませ。」
「あ!着いた!ありがとう色々話せて楽しかった!」
駅に着いたようで降車の準備をしだした。
「最後にひとつ、あなたが逃げようとも夢は逃げないからね!いい夢に巡り会えるといいね!」
そう言って降車していった。
ありがとう。
夢を必ず叶えるから!
彼女が歌ってる姿を見るのを心待ちにしてるね!
電車に乗って、どこか遠くへ、夢のある場所へ。

7/4/2025, 6:17:08 AM