ひのね

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#また会いましょう
少女の透き通った柔肌が、君とはまるで真逆である鮮やかな青色の病院服に馴染んでいるのは、僕は少しおかしな気がした。
山峡の地に生まれ、まだ海を見た事がない君へ。
僕は日に焼けた麦わら帽を脱ぐのも忘れて君の元にかけてゆく。
視界いっぱいに広がる海の大きさを、僕は両手を力いっぱいに広げて表現する。
君に伝わっているだろうかと期待と不安の狭間で揺れる。どうか君に伝わっていますように。
君の町には夏休みの期間しかいられないけれど、時間の許す限り君のもとへ参ります。
また会いましょう。
そしていつか必ず海を見に行きましょう。
海が今すぐ見たいと君が泣くのなら、僕は君のもとへ海水をバケツいっぱいに汲んでゆきます。
また、会いましょう。

(これは寺山修司の「海を知らぬ少女の前に麦藁帽のわれは両手を広げていたり」という短歌を元に書いた作品である。この短歌は山峡に生まれて昔から体が弱く海を見たことがなかった少女に、海辺の街で育ったわれが海の大きさについて語っているという歌である。)

11/14/2024, 5:17:08 AM