かたいなか

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「3月24日に『ところにより雨』、5月25日に『いつまでも降り止まない、雨』、それから6月1日が『梅雨』で、今回『雨に佇む』か」
3月は「『ところにより雨』、ピンポイントに自分の所に降りがち説」、5月は「『止まない雨は無い』って励ましのセリフがあるけど、実際絶対止まない雨は有るよな説」、6月は日本茶の茶葉「あさ『つゆ』」で書いたわ。過去投稿分を振り返る某所在住物書き。
外ではさらさら、ざーざー、雨が降っている。

「……ところで別に気にしてねぇけどさ。最近、某ソシャゲのリセマラしてたの。
気にしてねぇけど、1週間くらい粘って、結局、大妥協して絶対条件1枚だけ揃えたわけ。
……今日その絶対条件キャラ厳選のピックアップのガチャ始まってさ。1週間、何だったのって」
気にしてねぇよ。ホントに気にしてねぇけど。
唇をきゅっと結ぶ物書き。外の雨は止まない。

――――――

昔々、まだ年号が平成だった頃のおはなしです。前回投稿分にまつわる、平凡な恋愛のおはなしです。

都内某所、某自然公園。
雪国の田舎出身であるところの自称捻くれ者、今は諸事情で姓が変わり、当時は附子山と言いましたが、
深い群青の傘をさし、白いリネンのサマーコートを羽織り、さらさら、ざーざー、雨に佇んでおりました。
田舎出身の附子山は、雨を好み、雨に歓喜する花を草を好み、つまり、自然を愛しておりました。

花に季節を見出し、雨とともに歩き、落ち葉を喜々として踏んで、ドカ雪と路面凍結を憎みながらもその美しさだけは認める。
附子山は、口では人間嫌いの捻くれ者と言っておきながら、その実心が優しくて、真面目で、草と花と風と水を愛するひとでありました。

「本当に雨好きだよね。附子山さん」
それが心底気に入らないのが、附子山の顔に一目惚れした恋人。加元といいます。
元カレ・元カノの、かもと。分かりやすいですね。
「濡れちゃうよ。良いの?」

「あなたが濡れるのは、良くないと思う」
都会と田舎のあらゆる違いに、揉まれ擦られて、一時期、本当に人間嫌いになっていた附子山。
「私のような物好きの捻くれ者に、無理して、合わせてくれなくても」
加元の知らぬ、顔も分からぬ、唯一の親友以外は誰も寄せ付けない、静かで鋭利な野性の敵意と、
加元好みの、やや細身な容姿。
それらがバチクソ気に入って、懐に入り込み、初恋の心を奪ってみたは良いものの、
いざ附子山の人間嫌いが癒えてくると、見えてきたのは解釈違いな内面ばかり。

実は優しい?
あなたは野性を失って人慣れしちゃった犬ですか?
スマホで自然を撮るのが好き?
自分の趣味を一切見せない、完全フラットで無色なあなたは今何処ですか?
群青?白?
いやいやそこは、赤か黒でしょう?
不一致、不一致。
公式の解釈相違とは、まさにこのこと。

「大丈夫だよ。附子山さん」
けど悲しいかな、附子山の顔は、スタイルは、加元のドチャクソ好みなのです。
そしてなにより、加元は恋人というアクセサリーを、それを所持している自分のステータスを、絶対手放したくないのです。
気分落ち込む雨が嫌い、虫に刺される草が嫌いな加元は、それでも「恋人」が欲しくて欲しくて、わざわざ、笑顔で嘘を吐きます。
「私も、附子山さんと同じく、雨が好きだから」

「そう。それは良かった」
表情に左右対称性が無い。
特に左側が右側ほど笑ってない。
加元の偽証の軽微な可能性を、「加元さんがそんな、まさか」の盲目な恋煩いで、知らんぷりする附子山。
加元が自分の某旧呟きアプリの別アカウントで、
『雨が好きとか違うでしょ。解釈不一致なんだけど』
なんて呟いているのも知らないで、
さらさら、ざーざー。
静かに、草花濡らす雨に、佇んでおりました。

後日、ようやくその呟きに気付いた附子山。
名字を変え、住む区も移し、加元との縁を「すべて」バッサリ切ったつもりでしたが、
附子山が想定していた以上に、加元の執着はバチクソに強かったらしく……

8/27/2023, 2:09:26 PM