NoName

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ふと、前を歩くあなたが透明に見えた。
背景の空と海の境界にに溶けようとしているあなたの背中に、私は思わず飛び込んだ。
ここで掴まないと、抱きしめないと、あなたがどこか、私の知らない所へ行ってしまう気がしたから。

「行かないで」

か細い私の声に、あなたは答えた。

「大丈夫だよ」

冬の朝みたいに、澄んだ声であなたは呟く。
ゆっくりと振り返ったあなたの目は、こちらが吸い込まれそうな透明で。もう全然、私の知っている色をしていなくて、泣きたくなった。
私はそこでようやく、手遅れだと悟ったのだ。

5/21/2024, 12:59:05 PM