わをん

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『絆』

うちの犬は世界一の名犬だった。
仔犬の頃にうちにやってきて家族の上下関係を短い期間に見抜いた結果、母には絶対服従し、父にはおやつをよくせびりにいっていた。私は散歩に連れて行く係だったしボール遊びもよくやったしできょうだいのように思われていた気がする。
元気いっぱいだった犬はやがて足腰が弱って歩くことすらままならなくなり、ある日に眠るようにして亡くなった。犬の生きる時間と人の生きる時間の大きな違いを知り、ひとりっ子だったけれどきょうだいを失うことはこんなにもつらいことなのかと思った。
何ヶ月かが過ぎても火の消えたようになった我が家で母が声を上げる。
「また犬をお迎えしたいんだけど、どうする?」
悲しい気持ちはあったけれど父も私もお迎えしようと頷いた。保護犬の譲渡会をネットで探したり実際に出向いて見て回っていたが、ある時家族で訪れた先で3人ともの足が一匹の犬の前で止まった。
「なんか、めっちゃ似てるね?」
「なにがとか、どこがとかは言えないけど、確かに」
「なんだろ。なんとなくすごい似てる」
ケージの中の仔犬は不思議そうにこちらを見つめている。帰り道は3人と一匹になった。
うちには世界一の名犬がいた。あの子と築いた絆が縁となり、また新しい関係が紡がれようとしている。

3/7/2024, 3:14:04 AM