るね

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【イブの夜】



 いつからか、トンカツが重たく感じるようになり、好きなはずのステーキですら持て余したり、天丼よりも蕎麦を頼むようになったりしていた。でも、己の老化は直視したくないし、イベントは楽しみたいし……

「ほら見ろ、チキンレッグひとり一本はもう俺らには食えないんだよ。ケーキもあるんだぞ」
 長年の相棒であり、同居人であり、親友でも恋人でもある男が、腹をさすって息を吐く。
「買う量を考えようぜ、もう少しさ」

「そんな寂しいこと言わないでよ。イブの夜って言ったらコレでしょー!」
「でも余らせたらもったいないだろ」
「だからって……ピースで売ってるのはフライドチキンだよ? それこそ食べきれないよ」
「量を控えろって言ってんの。シェアすりゃいいだろ」
「チキンレッグをふたりで一本?」
「そうでもしないと他のものが食えないだろ」

 えぇーっと不満に呻いて、でも、テーブルの上のオードブルセットがかなり残っているのも確かで。これ、明日の朝にも食べられるかな。
 あ……もしかして、それどころじゃないくらいに胸焼けしてるかも?

「こう考えてみようぜ。『俺たちはふたりで居るから、まだチキンが食える』」
「それはそうだけど」
 男がいたずらっぽく笑った。
「俺の食いかけじゃ嫌か?」
 狡い聞き方だ。
「……嫌じゃない」

「なら、来年からはシェアしよう。な?」
「うん」
 こくりと頷いたら、良い子だとばかりに頭を撫でられた。

 今更、来年も一緒に居てくれるかなんてことは疑っていない。けど、お互いあちこちガタがきている。大病を患うのだけはやめて欲しいと切に願う。

「シェアでいいから……来年も一緒にチキン食べようね」



12/24/2024, 8:02:58 PM