作家志望の高校生

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「写真部展示会……」
朝、昇降口で受け取ったビラを眺める。コンテスト式の展示会だというソレに、少しだけ興味を引かれた。写真部には、俺の唯一の友人も所属していたはずだ。少し見に行くくらいならいいかもしれない。そんなことをその時は思ったが、ビラを鞄にしまってからはすっかり、そんなことは頭から抜けてしまっていた。
「ねー!マジでお願い!ね、ね?今度ご飯奢る!」
目の前で両手を合わせて小首を傾げ、悪びれもしない笑みを浮かべて懇願してくる彼を見て、ようやくその存在を思い出したのだが。
「……まぁ……奢ってくれんなら……」
年中金欠の俺は、奢りという言葉に釣られて承諾した。コイツの昔の家庭環境の悪さを知っているから、こういったおねだりに弱いのもあるが。なんでも、件の展示会に展示する写真がまだ撮れていないらしい。それで、一緒に撮りに行って欲しい、と。
終業のチャイムと共に俺の教室へ突撃してきた彼の手には、それなりにしそうな一眼レフがあった。父親のお下がりだと言っていた気がするが、確かに年季が入っている。
「早く行こ!」
ぐいぐい手を引かれ、学校の裏門から外に出る。正門しか使ったことが無かったが、裏門は湖の辺に出るらしい。
「実はねー、撮る場所はなんとなく決まってるんだ!」
そう言った彼が俺を連れて行ったのは、ススキがよく映える公園だった。しかし、綺麗ではあるものの写真映えはしない気がする。
「いーの、僕はどうしてもここが撮りたいから。」
もっと写真映えする所を撮ればいいのに、と素直に口にしたら、少し拗ねたように彼が言った。何かは知らないが、こだわりがあるらしい。
パシャパシャと何枚か撮っては見返し、また撮るのを繰り返す。待ち時間が長くて飽きてきた俺は、小さな公園内を適当に歩き回っていた。
ふと見えた夕日が綺麗で、眺めたまましばらく立ち止まっていた。ススキの湖に太陽が落ちていくようで、茜色の光が鮮烈に網膜を焼き付ける。
パシャ、とシャッター音がして振り向くと、彼がこちらにレンズを向けていた。
「は?勝手に撮んなよ。」
「ごめんって!……ね、この写真使っていい?」
せめて写真を見せろと言っても、まだ秘密だと言って見せてくれない。どうせ逆光で大して顔も見えないだろうと、溜息を吐きながら渋々了承した。
展示会当日、俺は彼にまた手を引かれて展示会場へ連れてこられていた。
貼られていた写真の中、一際目立つ大きなものがあった。大賞と書かれた下の解説パネルには、彼の名前。
あの日撮った俺の写真に、天使の翼が後から描き足されている。
「ね、どう?よく撮れてんでしょ。」
タイトルは、『僕の天使』。瞼の裏に、まだ幼い頃あの公園で交わした約束が過った気がした。
「……まぁ、いんじゃね。」
飛び跳ねて喜ぶ彼の背中に、俺も透明な羽根の幻覚を見た気がした。

テーマ:透明な羽根

11/9/2025, 7:14:56 AM