撫子

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 夜の国を、蜜色に輝くゴンドラが行く。
 ゴンドラの中では乙女がふたり、光を纏う長い髪のなかに寝転び、手元に視線を注いでいた。

「ねえ、最近前より墜ちる星が多いと思わない?」
「地上が明るくなったからよ、きっと。目が眩んだのね」

 黒々としたビロードには、いくつか小さな穴が見受けられる。彼女たちはその天幕から剥落した星の代わりに、模造品の硬玉を縫い留めていた。

「こんなこと続けていたら、いつかは全部がニセモノになっちゃうんだから」
「その頃には、わたしたちも解放されるでしょうから、そうしたらもっと広いところに行きましょう」
「そういえば、今ちょうど半分くらいかな?」
「そうね。これからもっと狭くなっていくのに、休みは月に一日だけなんて、ひどい話よね」

 中天を超えて、ゴンドラは進む。
 身を寄せ合いながら、夜空を繕う乙女を乗せて。半分ほどの広さになったゴンドラが、夜をゆるやかに滑り降りていく。
 
 地上から見上げたなら、夜空に下弦の半月が光り、星も変わらず瞬いていることだろう。

(狭い部屋)

6/4/2023, 12:27:42 PM