「君はなぜ、我が天文部に入部したのかね?」
座っている私の正面に仁王立ちする小さい先輩の顔を、私は少しだけ見上げた
「そうですね、強いて言うならなんとなく“かっこいいと思ったから”ですかね」
嘘をつく必要なんてないので、正直に答える
「そうか、そうか、かっこいいか...」
先輩はにやけながら少し誇らしそうに腰に手を当てた
「そうであろう、そうであろう、やっぱり星はかっこいいよなぁ」
先輩は腕を組んで、ふんふんと鼻を鳴らしながら部室の端にある大きな望遠鏡を撫でた
「先輩は...先輩はなんで、天文部に入ったんですか?」
私はふと疑問に思いそう尋ねた
先輩は自分も聞かれると思ってなかったのか一瞬困ったような顔をして
「そう...だな、少しだけ昔話をしてもいいかい?」
といつもより少し真面目な顔で聞いてきた
「もちろん構いませんよ星空が見えるまでは暇ですから」
私がそう言うと望遠鏡を撫でていた先輩が、私の正面の席に座り語り出した
「私の家族は私が小さい時に交通事故で死んだんだ
本当に幼い頃だったから、私は両親の記憶がほとんどない
私を育ててきたのは祖母と祖父だ
だけど私は自分だけを残して死んだ両親を恨んだことはない
事故の後見つかった時にな、母親と父親は私に覆いかぶさるように死んでいたらしい
まるで2人で私を守っているかのように
これは私の勝手な憶測だが、私の両親はきっと最後まで私を守ろうとしてくれていたのだと思う
自分の命と引き換えにしてでも私の命を守ってくれた、
そんな2人がいたから、今の私がある
...人は死んだら空に還るとよく言うだろ?
科学的には絶対にありえない、人間の願望でしかない
けれど、もし...もし本当に両親が空に還っているとしたら
空からこちらの姿を見ているとしたら
“私も両親の姿が見たい、私も彼らの笑っている姿が見たい”
そう思ってな
だから私はこの部に入ったんだ。
まぁ、今やその理由も関係ないくらい星のことが大好きになったんだがな
自分の話をつらつらと長く語ってしまってすまない、そろそろ外が暗くなってきた星空の観測を始めようか。」
先輩はそう言って望遠鏡を取りにいった
「そうですね始めましょうか」
私はずっと座っていた席から立ち上がり、背伸びをして小さな体で大きな望遠鏡を持つ先輩の後ろについていく
先輩の後ろ姿はなんだかいつもよりおっきく、かっこよく見えた
やっぱりこんなかっこいい部活に入れてよかった、そう思いながら
私は今日も先輩と星空を見る
お題:『星空』
7/5/2022, 2:50:55 PM