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書く習慣:本日のお題「春爛漫」

「春爛漫」は、春の花が咲き乱れている様子を指す言葉らしい。私は根っからのインドア派、春爛漫エアプ勢である。

今年の桜だけは何度も花見リピートしたが、その他の花は近年めっきり見に行っていない。

というわけで、天気もよいので久しぶりに外に出てみた。

盛りを過ぎた桜が散り、白に近い淡いピンクだった景色はピンクブラウンのガクや葉桜の緑色に移りつつある。足元の植え込みに目をやれば、薄緑の葉の間からツツジが咲き始めている。ツツジの白とピンクの筋模様の配色が豚バラに見えてきて、さっそくお腹がすく。

フリーダムに雑草がはびこっている遊歩道脇の緑地には、濃いピンクの小さな花が点在している。草部分が蔓っぽいのはカラスノエンドウで、独特の形をしているのがホトケノザだ。どちらも幼稚園の頃に図鑑で見て、翌年小学校に上がってから実物を見つけて「おお〜!」と感動したので、20年以上経った今も覚えている。

今はGoogleレンズという文明の利器がある。目に止まった草花をなんでも調べられるので、散歩中の調べ物がたいへんはかどる。

黄色い小さな花の絨毯は、コメツブツメクサ。有川浩の『植物図鑑』で、ヒロインがほぼ一夜漬けで図鑑を読み込み、好きな人との野草デートで花の名前を挙げていく場面で出てきた花だ。名前だけは小説経由で知っていたが、実物の花姿と結びついていなかった。

6枚花弁の青紫の花がアジサイみたいに手まり咲きになっているのは、オオツルボ。緑の雑草に混じって青紫の花が咲いていても寒色同士で沈みそうなものだが、このオオツルボの花は不思議と目が吸い寄せられる色をしていた。私の好きな色だからだろうか。オオツルボと同じ色合いのヤグルマギクもそろそろ咲く季節になるので、今から楽しみだ。

どこにでも生えている薄オレンジの一輪咲きは、ナガミヒナゲシ。ヒナゲシといえば「コクリコ」や「虞美人草」などのかわいい・きれいなイメージがあるが、ナガミヒナゲシは素手で触るとかぶれる危険な植物である。以前勤めていた会社の敷地によく咲いていて、先輩から「見つけ次第その場で引っこ抜け」と指示されていた。先輩の言うことを鵜呑みにして触っていたら、労災が発生していたかもしれない。

花壇でぴしりと整列しているのは、紺に近い紫色のアイリスだった。葉っぱはチューリップに似ているが、いかにも春らしくポップなチューリップと違って、アイリスは春の浮かれ気分をすっと落ち着かせるような花姿をしている。村山由佳の『星々の舟』で、「深い藍紫の花は、集まって咲けば咲くほどしんと静まり返って見え」ると書いてあり、まさしくその通りだと思った。

ふと気がつくと、春とは思えないほどぎらつく太陽に脳天を灼かれており、あっと思った時には頭痛がした。

慌てて立ち上がると、視界いっぱいにじわじわと極彩色のノイズが侵食しはじめる。どう見ても立ちくらみです本当にありがとうございました。

おさまるまで立ったままじっとしていると、耳の奥で「ざー」とも「じわじわ」ともつかない海鳴りのような音がして、視界のノイズがだんだん引いていった。

本格的に熱中症になる前に水分補給をせねばと自販機に直行。しかし悲しいかな、地方の自販機はまだまだ現金オンリーで、キャッシュレスな私はスマホと家の鍵しか持っていなかった。私の前には、決して手に入らない冷えた飲み物を格納した機械が白々しくそびえ、背後には滔々と流れる川の水が、ある。

一瞬思い浮かんだ名案……いや、迷案すぎる考えを頭から振り払い、キャッシュレスな自販機を探してまた歩き始める。

だが、電源もない川べりに幾つも自販機が設置してあるわけもない。音もなくゆったりと流れる川が、誘うようにキラキラと陽光を反射して輝いている。

私の前を行くふわふわ三毛の中型犬が、「ヘッヘッヘッヘッ」と舌を出して楽しげにしている。飼い主さんが立ち止まり、ペットボトルの先にシャベルみたいなのがついた給水ボトルを出して、犬に水を飲ませ始めた。

犬でさえ飲み水をもらえているのに、私ときたらふらりと手ぶらで家を出て脱水に陥りかけている。バカなのか? バカです。出かける前に水筒を詰める習慣が身についておりませんでした。

最寄りのコンビニまで1km。間に合うか?
恥を忍んで犬の飼い主さんに水を恵んでもらうか?

脳内でギリギリのせめぎ合いが始まった時、天の恵みが現れた。

川沿いの小さな公園の中に、水飲み場があった。

ほとんど小走りで公園に駆け込む。銀色のチェスの歩兵みたいな水栓が、この世で一番輝いて見えた。

蛇口を捻り、控えめな噴水よろしくちょろちょろと立ち上がった細い水柱に顔を寄せ、脇目も振らずにがぶ飲みする。

花より団子、いや水分補給である。

4/11/2026, 7:11:32 AM