電車に乗る。イヤホンをつける。YouTubeを開く。「後で見る」リストの、一番上の曲を再生する。
中学の頃から変わらない、私のルーティンの一つだ。
友達も少なく、進路のために毎日放課後を勉強に費やしていた私にとって、帰りの電車の中で一曲だけ音楽を聴くことは、一日の終わりのささやかな楽しみだった。
気になった曲は、とりあえず「後に見る」リストに追加。常に三十曲ほどが常備されたリストの、古いものから順番に消費していく。イマイチ響かない曲もあるし、パッと見たときには好きそうな感じだったのに聞いてみるとそれほどでもない曲もある。でも、たまに、心の奥底の、自分ですら覗いたことがないような深いところを震わせてくれる曲に出会えるから、このルーティンはやめられない。
社会人になった今でもそうだ。帰りの電車の中で、一曲聴く。どんなに疲れていても欠かしたくはない。
今日も、各駅停車の隅の席に腰を下ろすと、イヤホンを耳にはめた。全身から湧き出すような疲労感が、流れ出す音楽と混ざり合って溶ける。
ギターをベースにした、穏やかなリズムの前奏。どこか夜を連想させるメロディに、横文字を織り交ぜたよく言えばお洒落な、悪く言えばチープな歌詞。
私が学生時代、一番よく聴いた曲のリミックスだった。
乗っている路線も、見える景色も、抱えているものも何もかも違う。それでもあの日、勉強に草臥れた頭と心を心地よく揺すった音楽は、懐かしい旋律となって私の激務の終わりを彩る。
画面から顔を上げて、ぼんやりと車窓を眺めた。窓に写る私は、少し泣きそうな顔をしていた。
7/17/2022, 1:17:41 PM