かたいなか

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半年前、だいたい3月22日近辺に、「君『と』見た景色」なるお題が配信されていたようです。
「君が」に当たる他者、すなわち恋人や親友等々に該当するリアルの相手が思い当たらぬ物書きが、
今回は、こんなおはなしをご用意しました。

最近最近のおはなしです。「ここ」ではないどこか、別の世界のおはなしです。
「世界線管理局」という厨二ふぁんたじー組織がありまして、世界と世界を繋ぐ航路を運営したり、滅んだ世界からこぼれ落ちたチートアイテムを回収・保存したり。様々な仕事をしておりました。

管理局の仕事の中には、先進技術を持つ世界から発展途上世界への、侵略だったり、入植だったり、資源の略奪や過開発だったりを取り締まるという、
いわば、警察のようなものもありました。

異世界渡航技術が存在しない「こっち」の世界、日本を含めた地球は、いわば途上世界。
管理局は地球が「地球」として、独自性を尊重され、ずーっと独立して存在できるように、
他の世界からの干渉や、異世界組織からのアプローチなんかを、よくよく監視しておったのでした……

が。
先日、この地球の日本と接続していたハズのゲートだけが、何故か不具合を起こしまして。
現在、ゲート無しでも「向こうの世界」へ行ける局員が現地に急行して、原因を調査中。
完全な復旧には、数週間、数ヶ月かかりそうです。

で、このハナシと「君が見た景色」のお題が
一体どこで、どのように繋がるかと言いますと。
この「管理局と日本を繋ぐゲート」、都内某所の某不思議な稲荷神社に設置されておるのです。

稲荷神社に住まう稲荷子狐が
管理局と日本とを繋ぐゲートを伝って
稲荷のご利益ゆたかなお餅を売りに来まして。
このモフモフこんこんが大人気なのです。

その大人気モフモフこんこんが、原因不明のゲートの不調で、数日突然の訪問途絶です。
ごくごく一部のモフモフ依存症局員から、程度に差こそあれ、だいたいは軽微なものですが、
子狐欠乏症だの、コンコン禁断症状だのが、
段々と、報告され始めておりまして。

イチバンの重症な子狐欠乏症を、お題回収役の収蔵課職員、ドワーフホトが、見てしまったのです。

「うおぉぉぉぉ!!
最近、心の栄養が、コギツネウムが、モフミンが、コンコントテン酸が足りないッッ!!」
ドワーフホトが見つけたのは、稲荷子狐とは違う狐を、代わりに抱いてスーハースーハー、
喫煙ならぬ喫狐しておる、受付職員でした。

受付職員は、ビジネスネームをコリーと言いまして、稲荷子狐をそれはそれは、もう、それは、かわいがってモフモフして、餌付けしておりました。
稲荷子狐はコリーのことを、「ジャーキーのおねえちゃん」と言って、それはそれは、もう、それは、よく懐いておったのでした。
その子狐がここ1週間+αの長期間、パッタリ。
片耳も、尻尾の先も、姿を見せないのです。

急性の子狐欠乏症を呈したコリーは、早急にモフモフ要素を摂取しなければなりません!
そこでコリー、管理局内に存在する難民シェルターの、その中で難民向けのレストランを経営しておるコンコンズの中の1匹を拉致ってきて、
スーハースーハー、スーハースーハー!
モフモフ成分の摂取を始めたのです。

それを、お題回収役のドワーフホト、見たのです。

「やめろコン!離せコン!」
「もう少しだもう少し!ああああああ、心の健康が回復してゆく、モフモフで魂が満たされる」
「おまえの心の健康なんて、知らねぇコン!
レストランの営業妨害で法務部にチクるコン!!」

「ポンポンおなかも吸っておこう」
「こやぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

じたばた激しく暴れる狐を抱く同僚を見て、ドワーフホト、開いた口が塞がりません。
「わぁぁ。タイヘンなことになってるぅ……」
ああ、ああ。ドワーフホト。
君が見た景色こそ、お題です。
君が見た景色こそ、今回のおはなしです。
「スフィちゃん、早く、ゲート直してねー……」
暴れる狐と吸う同僚、双方を見なかったことにして、ドワーフホトは自分の仕事に戻りました。

「ここ」ではないどこかの職場の、局員が見た景色のおはなしでした。 おしまい、おしまい。

8/15/2025, 9:34:57 AM