川柳えむ

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 放課後の教室でうたた寝をしてしまった。
 目覚めると、そこにはクラスメイトで同じ部活動の部員でもある、仲の良い男子生徒が立っていた。

「あれ? なんか寝てたみたい。どうかしたの?」

 伸びをしながらそう声をかけると、彼は上擦った声で「なんでもない」と答えた。
 それから少しだけ会話をして、彼は教室を出て行った。
 さて、今日は部活もないし、友達も用事ですぐ帰ってしまったし、自分ももう帰ろうか。
 そうして、鞄を持って教室を出たところ、廊下に、同じくクラスメイトで同じ部活の男子生徒――そして、好きな人でもある――が立っていた。

「あれ? もしかして帰るところ?」

 そう尋ねてみると、なんだか様子がおかしい。

「あー…………」

 目を合わせようとしない。顔も強張っていて、なんだかとても不機嫌に見える。

「……なんか、怒ってる? なんで怒ってるの? 何かあった?」

 その問いに、彼はただ苦い顔をして「怒ってない」と一言言うと、すぐどこかへ行ってしまった。
 ――え?
 素っ気ない態度で避けられた。
 怒っていないようにはとても見えない。気付かぬところで何かしてしまったのだろうか。
 もしかしたら、本当にただ虫の居所が悪いだけだったのかもしれない。
 でも、少し冷たくされた。たったそれだけのことなのに。胸の奥に棘が刺さり、それがじわりと膿んで拡がっていくような。
 そうしたら、胸がどんどんと痛くなっていって、なんだか堪えられなくて。痛みは涙になって頬へと流れ落ちた。
 帰る元気も失って、教室へ一人戻る。
 ふわりと揺れるカーテンに抱き締められるように包まる。

 ――好き。
 好きだから、こんな些細なことが耐えられない。
 情けない。辛い。どうしよう。嫌われてたらどうしよう。

 放課後の教室は静まり返っていて、彼女は声を押し殺して泣いた。


『放課後』

10/12/2023, 10:45:59 PM