『起きる時間だよ。』
嫌だよ。起きたくない。
『おはよう。』
俺は言葉が出なかった。目の前には、死んだはずの彼女が居たのだ。彼女は変わらぬ、優しさを纏っていた。
『ここがどこか分かる?』
「もしかして、天国?」
『半分正解かな。ここはね、あの世とこの世の堺目。』
俺は少し残念に思う。俺は完全に死に切る事が出来なかったのだから。
彼女が亡くなった日から、俺の世界は彩りを失った。何もしてもつまらないし、ただ辛いだけだった。だから、自殺しようと思った。彼女に逢いに逝こうと思った。そして、俺は飛び降りた。
『さぁ、もう起きる時間だよ。』
彼女は微笑みながら言った。嫌だ。ここに居たい。彼女と一緒に居たい。そんな言葉にならない、感情がこみ上げてくる。
『君はまだ生きるべきだ。』
「そんな事ないよ。誰も悲しまないし、気にしないよ。」
『私は君が死んだら、悲しいよ。』
ずるいよ。そんな事言われたら、生きたくなっちゃうじゃん。俺は泣いていた。
『来世で逢えたら、また恋をしよう。』
そういった彼女の頬は濡れていた。
目が覚めると、真っ白な天井が目に映る。彼女の面影はどこにもなかった。しかし、彼女が見守ってくれている気がした。これからどう生きようか。窓の外を眺める。そして思う。彼女との思い出を辿るのも良いかもしれない。
7/10/2024, 2:22:56 PM