流れ星に願い事をするなんていつぶりだろう。
少なくとも、俺があの子くらいのときには既にしなくなっていた。俺の願い事が叶うことは無いと知っていたから。
当然、あの子の願いが叶うことも無いと知っている。俺もあの子も、同じ人間なんだから。
それでも最近は、俺とあの子がどんなに同じでも、やっぱり違う人間なんだなと思い知らされる。変わらないはずの生活が、いくつかのイレギュラーによって壊れかけている。
……壊れるなんて表現をしたらあいつらが悪者みたいになるけど、実際壊れているものは壊れているんだから仕方ない。
「いいことなんだけどね」
俺はそう独りごちて息を吐いた。誰に聞かれた訳でもない言葉は、闇に溶けて消えていった。
あの子の世界は、壊れてしまった方がいい。壊してしまった方がいい。
誰かが、誰かが。誰が?誰も壊せずに、壊してくれずに、こうして俺は今存在しているのに?
あの子が大切にしているあいつは、今度こそあの子を救ってくれるだろうか。
俺が大切にしていたあいつは、あまりにも優しすぎたから。だから、壊してはくれなかった、それだけの勇気がなかった。
でも今なら。イレギュラーである今なら、可能性はある。
あの子の望みは、俺の望みは、それだけだ。
……俺と彼女のことは、気にしなくていいからさ。
憎らしくて愛おしい、俺の大切なあいつと同じくらい優しいあの子は、きっと壊すのを怖がる。悲しんで、否定するだろう。
俺だって、彼女だって、そりゃ悲しいさ。
悲しいけれど、もういいよ、疲れたでしょって、諭してあげないと。そうして、笑ってみせるんだ。
だからさ、頼むよ。
今度こそ、どうか。
星が瞬いた瞬間。
俺は、誰に聞かせる訳でもない言葉を、誰かに聞こえるように、ポツリと呟いた。
11/6/2021, 4:53:36 AM