「好きだよ。」
軽い彼の言葉が、風に乗って届いてくる。
「好き。」
私の言葉を、彼は軽く受け流した。本当に、私達って付き合ってるんだろうか。そう考えてしまう程だ。街を歩けば可愛い娘ばかり見てるし、煙草だって何度言っても止めてはくれない。〝私の事、好き?〟その言葉を考えて、すぐに飲み込んだ。面倒くさい女って思われたくない。
「今日は、帰るね。」
はぁ、今日も彼は好きとは言ってくれなかったな。哀しいとは思はない。でも…。
「寂しいね。」
そう言葉にした時、強い衝撃を身体に受けた。そして、視界が暗闇に包まれた。私はそのまま、意識を手放した。
気付いた時には、私は死んでいた。どうやらあの日、私は車に轢かれたらしい。
『あぁ、結局彼に好きって言ってもらってないな〜。』
少しの後悔が残る。その時、何処からか小さな声が聴こえた。懐かしい声が。
「死んじゃったんだね。」
彼だ。私の墓参りに来てくれたらしい。墓参りだというのに、相変わらず煙草は咥えたままだ。
『君は変わらないね。泣いてくれても良いのに。』
私の声は彼には届かない。きっと風に乗るには重すぎるのだ。
「ねぇ、戻ってきなよ。一人は寂しいでしょ?」
『うん、寂しいよ。君もだと良いな。』
彼は少し泣きそうな顔をしている様に見えた。
「そろそろ帰るね。また、来るよ。」
もう夕暮れか。きっと、彼はもう来ないのだろう。やっと束縛から解放されたのだから。
風が吹く。
「好きだよ、この先も。君だけが好きだよ。」
彼の煙草の香りと、初めて聞く言葉が風に運ばれる。私の頬には、涙が伝った。
3/6/2025, 12:12:43 PM