猫宮さと

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《本気の恋》

今日も私はいつものように、本部で政務に励む彼に連れて来られている。
私が闇の眷属に魅入られし者として、生活を共にしながら彼に監視されているから。
それでも私はこの世界に来る前からずっと彼のことが好きだったので、監視とは言え一緒に暮らせるのは物凄く幸せで。
その上、真面目で実直な彼はそんな私を人として丁寧に扱ってくれてる。
だから毎日、ますます彼のことが好きになっていった。

今は、お昼時。
彼と一緒に食堂でご飯を食べていると、テレビから観光名所特集が流れてきた。
その名所の中に、夏の初めに彼と一緒に行った蓮の池が紹介されていた。

夜明けから午前に、小さくてもはっきりした音を鳴らしながら花開く蓮の花。
向かいに座っているあなたも、その映像に目を止められている。

あの夜明けの光に包まれた池の畔であなたと一緒に見ていた蓮の花がポンと音を立てて咲いた瞬間、私はつい嬉しくなってあなたへ向き直りガッツポーズをしてしまって。
そんな女らしくない行動を取ってしまった私を見たあなたは、花開く蓮の邪魔をしないように声を潜めてくつくつと笑いだして。

そのあなたの無邪気な心からの笑顔を目の当たりにして、私の胸にもポンと新しい花がまた咲いた。

あの時は照れくさくて恥ずかしくて、思わず叫びそうになるのを下唇に力を入れる事で何とか堪えてた。
すると彼は笑顔のまま手を『すみません』の形にしたと思うと、また無言になり蓮の開花に目を向け始めた。

湿原地帯の視察がてらではあったけれど、着いてくる私のことも気遣って色々な場所を見せてくれたあなた。
いつもは人当たりのよい笑顔だけれど、不意に無邪気な笑顔を見せてくれるあなた。

今の自分の立場を考えれば、これだけでも幸福だ。
それでも想ってしまう。
もっとあなたの心からの笑顔が見たい。
あなたを喜ばせたい。
いずれ離れることになるだろうと分かっていても、ずっとあなたのそばにいたい。

テレビに映る池一面の蓮の花を見ながら自分の欲張りな願いに思いを馳せていると、向かいの彼が私を見て言った。

「この蓮の開花は見事でしたよね。また来年、次は視察抜きで一緒に見に行きましょうか。」

私は、息を飲んだ。

それは、世間話のようなさらりと何気ない一言のような口調で。
彼の表情は、ふわりとした優しい笑顔に満ちていて。

当たり前の事のように、あなたは私との未来を考えてくれている。

いいの?
ずっと、あなたのそばにいても。

私ばかりが嬉しくて、本当にいいの?

思わず、私はこの気持ちを告げそうになる。
でも、本気だからこそ言えない。
その一言がきっかけで今の安らぎが壊れて、この幸せが取り戻せなくなるかもしれないから。

私はその言葉を飲み込んで、今伝えられる最大限の気持ちを彼に伝えた。

「はい。また来年、一緒に蓮を見に行きたいです。」

9/13/2024, 2:42:03 AM