地球には重力が働いていて、物を手から話すと必ず垂直に落下する。また、そこに風が加わると風向きに少し物が傾いたり、風向きに連動するように動いたり。
それは何処かから飛び降りる時も同様であり、重力の影響で人は垂直に落下し、そこに風が生じる。服が風に煽られ揺れる。その時間はほんの一瞬だが、その一瞬を体感すると、実際はそうではない。飛び降りで自殺未遂した人は皆そう言う。あの時間の中に、落ちていると感じる実際の景色、自分の全身に当たる風の圧、そして頭の中を巡る走馬灯。
私は今実際にその状況に置かれている。いや、正確にいえばその状況にならざるを得なかったのだ。私が乗っていた船が不具合によって、今にも爆発しそうな勢いだったので、私は急いで一番必要なボンベだけを持ち出して船から飛び降りた。
でも何故だろう。落ちていると感じれる程の景色の変わりも無ければ、圧を感じるほどの風も感じない。更に、走馬灯なんかが巡るわけもない。
何だ、あれは嘘だったのか。
そう思うしかない私は酸素ボンベが無くなるのをただただ見つめながら、無重力空間に留まる他無かった。
「落下」
6/19/2024, 7:51:19 AM