逆井朔

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お題:未来

 子どもの頃から今でも、未来というものを思い描くことができない。
 ずっと、二十歳を超えてからの未来がイメージできなかった。いや、それ以前に、高校生の自分、大学生の自分なども既に満足に想像できなかった。当時色々家庭で大変なことがあり、生きているのさえ嫌になっていたのも大きい。

 キャリアデザインという言葉など、自分の子ども時代にはまだ馴染みはなかった。将来何になると聞かれても、見たことのある仕事しか想像がつかなかった。

 仕事も、結局、親が認めるものでないと許されない圧があった。そういうものに巻かれて、何もかも思考を放棄して就職してみたけれど、結果的にその仕事は致命的に自分には向いていなかった。その仕事を選ばなければその学部に通った意味はないというのに。

 何のために自分は生きているのだろう。

 上の兄は、己のやりたいことを幼い頃から貫き、努力を欠かさぬ人だった。そのやりたいことの他に芸術の才能もあり、親からも世間からも認められてきていた。自分には何もなかった。ただ、立派な兄が常に何歩も先を歩いているのを後ろからただ見守っている日々だった。

 施設の祖母から、お前はいつ結婚するのか、ずいぶんと適齢期を過ぎているが大丈夫なのか、結婚式に参列したい、お前の親だって結婚を望んでいる、親孝行をしてやりなさいと延々と話をされた時も、心は冴え冴えと冷たく澄んでいた。
 普段なら親しくやり取りができたのに、この時はもう一言も口にしたくなくなっていた。

 誰かを喜ばせるために就職して、結婚して、そういう誰かのための歯車になる生活の中にも喜びはあるのかもしれない。でも、自分には、これ以上自分を他人の寄越す枠に無理やりはめ込んで、誰かの喜びのために自分の喜びを殺す生き方はもうしんどくてとてもできそうにないことだけは間違いない事実だった。

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執筆時間…30分もかかってない

6/17/2024, 2:48:36 PM