『ごめんね』
そんな言葉が聞こえてきて、作業の手を止め振り返る。
だがそこには誰もいない。それもそのはずだ、この部屋にいるのはもう自分一人だけなのだから。
首をひねってから、また目の前の作業に戻る。
そうして二、三分もしないうちに、再びどこからか『ごめんね』という声が聞こえた。
さすがに二度目となると何だか気味が悪くて、作業の手を止めると声の出どころを探す。
しかし部屋中くまなく探したのに、その発生源は見つからなかった。
気味が悪い、そう思いつつも早く目の前のこれを始末してしまいたかったから、また作業に戻る。
パチンパチン、パチ、パチン、パチパチ。
思い出をひとつずつ丁寧に切り落として、箱に詰めていく。
楽しかったこと、嬉しかったこと、悲しかったこと、腹を立てたこと。
最後の一片を慎重に切り落として箱にしまうと、それを今度は鞄に詰め込む。そうしてバラバラになった『思い出』を連れて、この部屋に別れを告げた。
「ごめんね、痛かったでしょう?でもこれで……ずっと一緒だよ」
5/29/2024, 10:22:00 AM