No.32『春雷』
散文 / 掌編小説
午前9時。わたしは本日二度目の眠りから覚めた。今日は珍しく早起きできたと思っていたのに、いつの間にか寝落ちてしまっていたらしい。
「えっ、うそ!」
手にしたままだった携帯を見て、思わず小さく叫んでしまった。そういえば今日は久しぶりに遠出の予定がある。寝落ちてしまったせいで、家を出なくちゃいけない時間が差し迫っていた。
携帯画面の傘マークを見て、傘を持って家を出た。準備万端。二週間ぶりの逢瀬はきっと上手く行く。そう思っていたその時、
「えっ、うそ!」
今朝と同じ台詞を口にしていたわたしの耳に、ゴロゴロと雷の音が聞こえてきて。
ああ、神様。あなたはなんて無慈悲なの。わたしが何か悪いことをしたとでも言うのでしょうか。
世界で一番雷が苦手なわたしは、足早に恋人のもとへと向かう。恋人に「怖がりだなあ」と笑ってもらう、ただそれだけのために。
お題:怖がり
3/17/2023, 1:35:11 AM